TheSafetyCompass’s diary

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ISO45001 7.2「力量」とは?資格・教育だけでは足りない理由を実務向けに解説【第32回】

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📚 ISO45001完全実務ガイド

📍現在地:支援編(2/5)

✓ 第31回 7.1 資源

● 第32回 7.2 力量 ← 今回

○ 第33回 7.3 認識
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会社で安全衛生教育を実施すると、受講者名簿や修了証が残ります。

そのため、

「教育を受けたので、この人には力量がある」

「資格証を持っているので、安全に作業できる」

と判断してしまうことがあります。

しかし、教育へ参加したことと、実際の作業を安全に行えることは同じではありません。

説明を聞いていても、異常時に機械を止められないかもしれません。

試験には合格していても、現場の危険な変化に気づけないかもしれません。

ISO45001の7.2「力量」で重要なのは、教育を実施したという事実だけではありません。

その人が必要な知識や技能を仕事で使い、安全衛生上必要な結果を出せる状態にすることが重要です。

本稿はISO45001:2018を対象としています。ISOの公式情報では、2018年版は2024年に確認され、2026年7月19日時点では現行規格ですが、改訂作業が進められています。公開前及び将来の更新時には、最新版の発行状況を再確認する必要があります。(ISO)


この記事で分かること

この記事では、次のことが分かります。

  • ISO45001でいう力量の意味

  • 7.2で組織が行うこと

  • 資格、教育及び力量の違い

  • 必要な力量を考える三つの範囲

  • 教育後の有効性を確認する方法

  • 力量の証拠として残す記録

  • 力量管理を行う実務7ステップ


この記事の結論

ISO45001の力量管理は、教育を実施して記録を残すだけの活動ではありません。

組織は、次の流れをつくる必要があります。

  1. 仕事や役割に必要な力量を決める

  2. 現在、その力量が備わっているか確認する

  3. 不足している場合は、教育、訓練、指導、配置変更などの措置をとる

  4. 措置によって本当にできるようになったか評価する

  5. 必要な力量を維持する

  6. 力量があることを示す証拠を残す

特に重要なのは、教育を行ったかではなく、教育などによって必要な力量を獲得できたかを確認することです。


ISO45001でいう「力量」とは何か

「力量」という言葉は、日常ではあまり使われません。

筋力や体力を意味する言葉のように感じる人もいるかもしれません。

ISO45001の実務では、力量を次のように考えると分かりやすくなります。

担当する仕事を安全に行うために、必要な知識や技能を実際に使えること

知識を持っているだけでは足りません。

例えば、機械の非常停止ボタンの位置を知っていても、どのような状況で押すべきか判断できなければ、必要な力量があるとは判断しにくくなります。

反対に、学歴や資格がなくても、適切な指導と実務経験によって、安全に作業できる力量を備えている場合があります。

ただし、法令によって免許、技能講習、特別教育などが求められている業務については、その法的要求事項を満たす必要があります。

力量は、次のような要素を組み合わせて考えます。

  • 知識

  • 技能

  • 教育歴

  • 訓練歴

  • 実務経験

  • 資格

  • 異常時の判断能力

  • 危険源やリスクを理解する能力

どの要素が必要かは、担当する仕事、役割及び安全衛生リスクによって変わります。

 


7.2で組織が行う四つのこと

7.2の内容は、おおむね次の四つに整理されています。

1.必要な力量を決める

最初に、組織は仕事や役割ごとに必要な力量を明確にします。

例えば、次のような人では必要な力量が異なります。

  • 現場で設備を操作する人

  • 作業を指揮する監督者

  • リスクアセスメントを行う人

  • 労働災害を調査する人

  • 緊急時に対応する人

  • 内部監査を行う人

  • 教育を担当する人

  • 設備を保守する人

「全従業員に安全教育を行う」という整理だけでは不十分です。

誰が、どの仕事を、どのような条件で行うのかを確認し、その役割に必要な力量を決めます。

2.必要な力量を備えていることを確実にする

必要な力量を決めた後は、担当者がその力量を備えているか確認します。

確認材料には、次のようなものがあります。

  • 保有資格

  • 教育の受講歴

  • 実務経験

  • 作業の観察結果

  • 技能確認の結果

  • 上司や指導者による評価

  • 試験や面談の結果

  • 過去の作業実績

確認方法は一つに限定されません。

作業の難しさやリスクに応じて、複数の方法を組み合わせます。

3.力量を獲得・維持する措置をとり、有効性を評価する

力量が不足している場合は、その不足を補う措置をとります。

具体的には、次のような方法があります。

  • 教育を行う

  • 実技訓練を行う

  • 経験者による指導を行う

  • OJTを行う

  • 外部研修へ参加させる

  • 一定期間、経験者の監督下で作業させる

  • より力量のある人を採用する

  • 担当業務や配置を変更する

ここで終わりではありません。

措置をとった後に、本当に必要な力量が身についたかを確認します。

これが「措置の有効性評価」です。

4.力量の証拠となる情報を残す

力量を備えていることを説明できるように、適切な文書化した情報を保持します。

例えば、次のような記録です。

  • 資格一覧

  • 資格証や修了証の写し

  • 教育受講記録

  • 実技評価表

  • 作業観察記録

  • 力量評価表

  • スキルマップ

  • 作業認定者一覧

  • 指導者による確認記録

  • 再教育及び再評価の記録

ISO45001は、すべての組織へ同じ名称や様式の力量表を要求しているわけではありません。

組織が必要な力量を管理し、その結果を説明できる形式であれば、既存の人事制度、資格管理表、教育記録などを活用できます。

 


必要な力量を考える三つの範囲

力量を資格だけで整理すると、必要な能力を見落とすことがあります。

実務では、次の三つに分けると整理しやすくなります。

1.法令及びその他の要求事項を満たす力量

日本の労働安全衛生法令では、一定の危険・有害業務について、免許、技能講習、特別教育などが必要になります。

例えば、就業制限の対象業務では、必要な免許や技能講習を修了していない人を業務へ就かせることはできません。

また、一定の危険・有害業務では、事業者が特別教育を行う必要があります。(厚生労働省)

ただし、法令上の資格を持っていることは、力量確認の出発点です。

資格を取得した後も、その事業場の設備、作業手順、取り扱う物質及び異常時対応を理解する必要があります。

2.ISO45001の仕組みを運用するための力量

現場作業者だけでなく、マネジメントシステムを運用する人にも力量が必要です。

例えば、次の業務です。

  • 危険源を特定する

  • リスクを評価する

  • 法的要求事項を確認する

  • 労働災害やヒヤリハットを調査する

  • 内部監査を行う

  • 教育を計画する

  • 緊急事態対応を計画する

  • 是正処置の有効性を確認する

内部監査員について考えると、ISO45001の研修を受けただけでは十分とは限りません。

質問の仕方、証拠の確認方法、現場観察、リスクの見方、不適合の判断なども必要になります。

3.担当する作業や職場の危険源に対応する力量

法令上の資格が定められていない作業でも、安全衛生上必要な力量があります。

例えば、次のような能力です。

  • 機械の異常音に気づく

  • 通常状態と異常状態を区別する

  • 作業を中止すべき条件を判断する

  • 必要な連絡を行う

  • 周囲の人を危険区域へ入れない

  • 定められた手順で設備を停止する

  • 作業条件の変化に気づく

「資格が必要ない仕事だから、力量管理も必要ない」ということではありません。

その仕事が労働安全衛生パフォーマンスへ影響する可能性があるなら、必要な力量を検討します。

 


変更があったときは力量も見直す

必要な力量は、一度決めれば終わりではありません。

次のような変更があれば、力量を見直す必要があります。

  • 新しい設備を導入した

  • 作業方法を変更した

  • 原材料や化学物質を変更した

  • 新しい法令要求が適用された

  • 人員配置や役割を変更した

  • 自動化やデジタル化を進めた

  • 災害やヒヤリハットが発生した

  • 手順どおりに作業できていないことが分かった

変更管理では、設備や手順だけでなく、その変更に対応できる人がいるかを確認します。

変更後の設備を安全に使う力量が整っていない場合は、設備が完成していても、安全な運用を開始できません。

 


資格・教育・力量の違い

資格、教育及び力量は、互いに関係しますが同じものではありません。

項目 意味 確認例
資格 法令、社内制度、業界制度などで定められた要件を満たしていること 免許証、技能講習修了証、社内認定
教育・訓練 知識や技能を身につけるための手段 座学、実技訓練、OJT、外部研修
経験 実際の業務を通じて知識や技能を身につけた経歴 従事期間、担当実績、指導経験
力量 必要な知識や技能を実際の仕事で使える状態 作業観察、実技評価、異常時対応

教育を受けたことは、力量を身につけるための手段です。

教育への出席そのものが、力量を備えたことの最終的な証明になるとは限りません。

 


7.1「資源」、7.2「力量」、7.3「認識」の違い

箇条7の各要求事項は、互いに関係しています。

箇条 主な役割 実務上の問い
7.1 資源 必要な人、時間、予算、設備、情報などを用意する 教育や安全活動を行うための条件があるか
7.2 力量 必要な仕事を適切に行える人を確保する その人は実際にできるか
7.3 認識 方針、リスク、自分の役割などを理解させる なぜ行うのかを理解しているか

例えば、非常停止の操作ができることは力量です。

非常停止が必要な状況や、停止をためらうことで生じる結果を理解していることは認識です。

訓練時間、指導者、訓練設備及び予算を用意することは資源です。

 


実務例:自動搬送設備を導入した物流センター

ここでは、物流センターへ自動搬送設備を導入した事例を考えます。

この設備は、倉庫内を自動で移動し、保管場所と作業場所の間で荷物を運びます。

設備を導入しただけでは、安全に運用できません。

人と自動搬送設備が同じ区域で作業するため、接触、挟まれ、予期しない起動などを考える必要があります。

必要な力量を役割ごとに決める

設備を操作する人

  • 起動及び停止の手順

  • 警報表示の意味

  • 非常停止の方法

  • 立入区域のルール

  • 異常時の連絡方法

  • 復旧を自分で行ってよい範囲

現場監督者

  • 人と設備の動線管理

  • 作業変更時のリスク確認

  • 作業を中止する判断

  • 異常発生時の指揮

  • ヒヤリハットの確認と再発防止

保全担当者

  • 設備の停止及びエネルギー遮断手順

  • 残留エネルギーの確認

  • センサーや安全装置の確認

  • 復旧後の試運転

  • メーカーが定めた保守要領

力量を身につける措置

組織は、メーカーによる説明だけで終わらせず、次の措置を組み合わせました。

  • 操作方法の座学

  • 実機を使った操作訓練

  • 警報が出た場合の対応訓練

  • 非常停止の実技

  • 経験者の監督下で行う試運用

  • 異常時の判断を確認する面談

有効性を評価する

教育終了後、受講者名簿を作成しただけではありません。

指導者が実際の操作を観察し、次の点を確認しました。

  • 定められた位置から設備を操作できるか

  • 異常時に作業を中止できるか

  • 許可されていない復旧を行わないか

  • 周囲の人へ必要な連絡ができるか

  • 安全装置を無効化しないか

  • 自分で判断できない場合に上司へ連絡できるか

確認結果を力量評価表へ記録し、合格した人だけを設備の操作担当者として登録しました。

この事例のポイントは、教育へ参加した人を一律に「力量あり」としなかったことです。

 


力量管理の実務7ステップ


ステップ1.安全衛生へ影響する仕事と役割を洗い出す

現場作業だけでなく、管理、監督、計画、点検、教育、監査、調査及び緊急時対応を含めます。

ステップ2.役割ごとに必要な力量を決める

必要な資格、知識、技能、経験及び判断能力を決めます。

「十分な知識があること」のような抽象的表現だけでなく、できるだけ確認可能な表現にします。

例として、「設備を理解している」ではなく、「異常表示を確認し、定められた停止及び連絡ができる」とします。

ステップ3.現在の力量を確認する

資格証、経験、面談、試験、実技及び作業観察などを使って確認します。

自己申告だけで判断せず、客観的な確認方法を組み合わせます。

ステップ4.不足している力量を明確にする

必要な力量と現在の力量を比較します。

不足がある場合は、その人を直ちに単独作業へ就かせず、監督下での作業、担当範囲の限定なども検討します。

ステップ5.力量を獲得する措置をとる

教育、実技訓練、OJT、指導、外部研修、採用、配置変更などから適切な方法を選びます。

すべての不足を座学教育だけで解決しようとしないことが重要です。

ステップ6.措置の有効性を評価する

実技、作業観察、口頭確認、試験、模擬訓練、一定期間の作業実績などによって評価します。

評価方法は、作業の危険性と必要な力量に合わせます。

ステップ7.力量を維持し、証拠を残す

資格の更新、再教育、定期訓練、変更時教育、力量の再評価を行います。

力量表、評価記録、資格一覧、認定者一覧などを更新し、誰が何をできるか分かる状態を維持します。


教育の有効性はどのように確認するか

有効性評価は、すべて筆記試験で行う必要はありません。

必要な力量に応じて方法を選びます。

必要な力量 有効性評価の例
手順やルールの知識 筆記試験、口頭質問
機械操作 実技確認、作業観察
異常時対応 模擬訓練、状況判断の質問
リスクアセスメント 演習結果、現場での実施状況
内部監査 監査への同行、監査記録の確認
作業指揮 実際の指示、配置及び判断の観察
緊急時対応 避難訓練、通報訓練、初動確認

満点の筆記試験に合格しても、実際の操作を誤る場合があります。

反対に、実技ができても、異常の意味や中止条件を理解していない場合があります。

知識と実技の両方が必要な仕事では、両方を確認します。

 


力量不足を教育だけで解決しない

力量管理は重要ですが、危険源を教育だけで管理してはいけません。

ISO45001では、危険源の除去、より危険性の低いものへの代替、工学的対策、管理的対策、個人用保護具という優先順位でリスク低減を考えます。

教育訓練は、主に管理的対策に位置づけられます。

例えば、機械へ手を入れなければならない危険な作業がある場合、

「手を入れないように教育する」

だけで終わらせるべきではありません。

可能であれば、設備構造、ガード、インターロック、停止方法などを見直します。

力量は、安全な設備や作業方法を適切に使うために必要です。

危険な仕組みを、人の注意力だけで補うための要求事項ではありません。


よくある誤解

誤解1.資格を持っていれば力量がある

資格は重要な証拠ですが、その事業場の設備や作業条件に対応できるかは別に確認する必要があります。

誤解2.教育へ出席すれば力量がある

出席記録は教育を行った証拠です。

必要な仕事ができることの証拠とは限りません。

誤解3.力量管理の対象は現場作業者だけである

管理者、監督者、安全衛生担当者、内部監査員、教育担当者なども対象になります。

誤解4.一度認定すれば再評価は必要ない

設備、作業、法令、役割、本人の状況などが変われば、力量を見直します。

誤解5.力量表という様式を必ず作らなければならない

特定の名称や様式が要求されているわけではありません。

既存の資格管理表、教育記録、職務基準などを組み合わせることもできます。

誤解6.外部委託すれば力量を確認しなくてよい

外部委託先や請負者へ業務を任せても、必要な力量を契約条件、選定基準、資格確認、作業前打合せなどで確認することが重要です。

ただし、発注者が請負者の労働者へ直接指揮命令してよいという意味ではありません。

契約関係、法的責任及び指揮命令関係を区別して管理します。

 


実践するときの注意点

力量管理を実施するときは、次の点に注意します。

  • 資格一覧だけで終わらせない

  • 教育回数だけを評価指標にしない

  • 評価基準を曖昧にしない

  • 評価者にも必要な力量を持たせる

  • 不合格者を責める制度にしない

  • 力量不足があれば作業範囲や監督方法を見直す

  • 設備や作業の変更時に再確認する

  • 教育で設備上の欠陥を補おうとしない

力量不足は、個人だけの問題とは限りません。

教育時間が与えられていない、指導者がいない、手順が分かりにくい、設備が複雑すぎるなど、組織側の資源や仕組みに原因がある場合もあります。

 


FAQ

Q1.力量表やスキルマップは必ず必要ですか?

必須の様式ではありません。

ただし、誰にどの力量が必要で、現在どの程度備わっているかを一覧で管理する方法として有効です。

Q2.教育後は必ず試験を行う必要がありますか?

必ずしも筆記試験である必要はありません。

実技、作業観察、面談、模擬訓練など、確認したい力量に合った方法を選びます。

Q3.長い実務経験があれば教育を省略できますか?

経験によって必要な力量が確認できる場合はあります。

ただし、法令で教育が義務づけられている業務や、設備・手順が変更された場合は、経験だけで省略できるとは限りません。

Q4.社内資格は力量の証拠になりますか?

適切な基準と評価にもとづく社内資格であれば、力量を示す証拠の一つになります。

認定基準、評価方法及び認定者を明確にしておくことが重要です。

Q5.力量の記録は何年間保存すればよいですか?

ISO45001の7.2自体では、一律の保存年限を示していません。

適用法令、資格制度、顧客要求、社内規定及び業務上必要な期間を確認して決めます。

Q6.派遣社員や請負者も対象になりますか?

その人の活動が組織の労働安全衛生パフォーマンスへ影響する場合は、適切な管理が必要です。

雇用関係、派遣契約、請負契約及び指揮命令関係を踏まえ、受入条件、資格確認、情報提供などを整理します。

Q7.力量評価で不合格になった人はどうすればよいですか?

必要な再教育、追加訓練、監督下での作業又は配置の見直しを行います。

不足した状態で危険な単独作業へ就かせないことが重要です。


まとめ

ISO45001の7.2「力量」は、教育記録や資格証を集めるだけの要求事項ではありません。

重要なのは、次の流れを機能させることです。

  1. 必要な力量を決める

  2. 現在の力量を確認する

  3. 不足を明確にする

  4. 教育、訓練、経験などで不足を補う

  5. 本当にできるようになったか評価する

  6. 必要な力量を維持する

  7. 力量の証拠を残す

資格は力量を示す重要な証拠ですが、資格だけで個別の設備や作業を安全に行えるとは限りません。

また、教育を実施したことと、力量を獲得したことも同じではありません。

「何を教えたか」だけでなく、

「その人が実際に何をできるようになったか」

を確認することが、7.2を実務で機能させるポイントです。

次回は、7.3「認識」について解説します。

力量が「できること」を扱うのに対し、認識では「なぜ必要なのかを理解していること」を中心に整理します。


注意書き

この記事は、安全衛生及びISO45001に関する一般的な情報提供を目的としています。個別の事業場における最終判断を代替するものではありません。実際の対応は、最新版の規格、適用法令、行政情報、社内ルール及び現場状況を確認し、必要に応じて管理者又は専門家の判断に基づいて行ってください。


要約

ISO45001の7.2「力量」は、安全衛生へ影響する仕事を行う人について、必要な力量を決定し、教育・訓練・経験などによって力量を確保・維持し、その措置の有効性を評価して証拠を残すことを求めています。資格や教育への参加だけでなく、実際の作業、異常時対応及び判断ができるかを確認することが重要です。

ISO45001 7.1「資源」とは?安全衛生を動かす人・設備・時間・予算を実務で解説【第31回】

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📚 ISO45001完全実務ガイド

📍現在地:支援編(1/5)

✓ 第30回 6.2.2 労働安全衛生目標を達成するための計画策定

● 第31回 7.1 資源 ← 今回

○ 第32回 7.2 力量
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安全衛生方針を決め、リスクを評価し、労働安全衛生目標と実施計画を作成しても、それだけでは職場は変わりません。

対策を実行する人がいない。

設備を購入する予算がない。

教育を行う時間がない。

測定や点検に必要な機器がない。

専門的な判断ができる人がいない。

このような状態では、どれほど立派な計画を作っても、実行できません。

ISO45001の7.1「資源」は、労働安全衛生マネジメントシステムを動かすために必要な人、設備、技術、時間、資金などを明らかにし、実際に利用できるようにすることを求める箇条です。

ISO45001は、方針や手順書を作るだけの規格ではありません。危険源を管理し、働く人の負傷や健康障害を防ぐために、必要な資源を現場へ投入することが重要です。

 


この記事で分かること

この記事では、次のことが分かります。

  • ISO45001における資源の意味
  • 7.1が求めている二つの重要な行動
  • 資源に含まれる人、設備、技術、時間、資金
  • 6.2.2や7.2との違い
  • 資源不足を見つける方法
  • 資源を管理する実務7ステップ
  • ISO審査で確認される可能性がある証拠

この記事の結論

ISO45001の7.1で重要なのは、単に安全衛生予算を用意することではありません。

組織は、労働安全衛生マネジメントシステムを確立し、実施し、維持し、継続的に改善するために、何が必要かを判断し、実際に使える状態にする必要があります。

実務では、少なくとも次の資源を考えます。

  • 必要な役割を担う人
  • 安全衛生活動を行う時間
  • 設備、機器、保護具、作業場所
  • 知識、情報、技術
  • 必要な予算
  • 外部の専門家や委託先

資源は、多ければよいわけではありません。

自社の危険源、リスク、法的要求事項、目標、業務内容に対して、必要な資源が不足なく提供されているかが重要です。


ISO45001の7.1「資源」とは何か

日常的な言葉でいう資源とは、仕事を行うために使える人、物、時間、お金などです。

ISO45001における資源も、基本的な考え方は同じです。

ただし、対象となるのは、単に生産活動を行うための資源ではありません。

労働安全衛生マネジメントシステムを、

  • 作る
  • 実行する
  • 維持する
  • 改善する

ために必要な資源を考えます。

ISO45001は、組織が労働安全衛生リスクを管理し、労働安全衛生パフォーマンスを改善するための枠組みを示す規格です。規格全体はPDCAを用いて運用され、ISOが示すモデルでは、箇条7「支援」と箇条8「運用」は主にDoの部分に位置づけられています。

つまり、7.1は、箇条6で計画した内容を実行へ移すための土台です。

 


7.1で重要な二つの行動

7.1の要求を理解するときは、次の二つに分けると分かりやすくなります。

1.必要な資源を決める

最初に行うのは、「何が必要か」を判断することです。

例えば、機械設備の保全作業で挟まれや感電のリスクがある場合、必要な資源として次のようなものが考えられます。

  • 保全作業を担当する人員
  • エネルギー遮断を行える人
  • ロックアウト用の器具
  • 電圧を確認する測定器
  • 保全作業を行う時間
  • 交換部品
  • 教育や訓練を行う講師
  • 必要に応じた外部専門家

ここで重要なのは、前年と同じ予算や人数をそのまま当てはめないことです。

設備、作業方法、生産量、働く人、法令、リスクなどが変われば、必要な資源も変わります。

2.必要な資源を提供する

必要な資源を決めるだけでは不十分です。

実際に現場で利用できるようにしなければなりません。

「必要性は認識しているが、予算がない」

「教育計画はあるが、忙しくて参加させられない」

「測定器は本社にあるが、必要なときに借りられない」

このような状態では、資源が提供されているとは言いにくくなります。

資源を提供するとは、購入することだけではありません。

配置する、利用できる時間を確保する、権限を与える、外部支援を契約する、必要な情報へアクセスできるようにすることも含まれます。

 


安全衛生に必要な六つの資源


実務で確認しやすいように、資源を六つに整理します。

1.人に関する資源

安全衛生活動を行うためには、担当する人が必要です。

例えば、次のような人です。

  • 安全衛生担当者
  • 管理監督者
  • 設備保全担当者
  • リスクアセスメントへ参加する作業者
  • 内部監査員
  • 作業環境測定や健康管理を支援する専門家
  • 緊急時対応を担当する人

人に関する資源では、人数だけでなく、業務量や役割分担も確認します。

安全衛生担当者を一人任命していても、他の業務で手いっぱいになり、現場確認や教育を行う時間がなければ、十分な資源とはいえない可能性があります。

2.時間

時間は見落とされやすい資源です。

安全衛生活動を行うには、次の時間が必要です。

  • リスクアセスメントを行う時間
  • 現場の働く人と協議する時間
  • 教育や訓練を受ける時間
  • 設備を停止して点検する時間
  • 災害やヒヤリハットを調査する時間
  • 改善活動を検討する時間

会議や教育を計画していても、生産予定が優先され、参加できない状態が続けば、活動は形だけになります。

時間を確保することも、資源を提供することの一部です。

3.設備、機器及びインフラ

安全衛生上の管理策を実施するには、設備や機器が必要です。

例えば、次のようなものです。

  • 機械の安全カバーやインターロック
  • 局所排気装置や全体換気設備
  • 作業床、手すり、安全通路
  • ロックアウト器具
  • 測定器や点検器具
  • 緊急停止装置
  • 救急用品
  • 適切な保護具
  • 教育を行う場所や通信環境

設備を購入しただけで終わらせてはいけません。

点検、修理、校正、交換、消耗品の補充など、継続して使える状態を保つための資源も必要です。

4.知識、情報及び技術

安全衛生上の判断には、正しい情報と技術が必要です。

例えば、次のようなものです。

  • 適用法令や行政情報
  • SDS
  • 設備の取扱説明書
  • 危険源やリスクに関する情報
  • 測定、分析、評価の技術
  • 災害やヒヤリハットのデータ
  • 設備メーカーからの技術情報
  • 社内外の改善事例

情報が古いままでは、必要な対策を正しく判断できません。

情報を入手する仕組み、整理する担当者、必要な人へ伝える手段も資源として考える必要があります。

5.資金

設備の改善、教育、点検、測定、保護具の購入などには費用がかかります。

そのため、予算も重要な資源です。

ただし、ISO45001は、必ず「安全衛生予算」という独立した勘定科目を設けることまで求めているわけではありません。

重要なのは、必要な対策を実施できる資金が確保されていることです。

必要な対策が何年も先送りされている場合は、予算の決め方や優先順位が適切かを見直す必要があります。

6.外部から得る資源

必要な資源をすべて社内で保有する必要はありません。

自社に専門的な知識や設備がない場合は、外部の資源を活用できます。

例えば、次のような支援です。

  • 労働安全・労働衛生の専門家
  • 産業医や保健師
  • 作業環境測定機関
  • 設備メーカー
  • 保守点検会社
  • 教育機関
  • 分析機関
  • 外部監査員
  • 専門工事業者

ただし、外部へ委託すれば、組織の責任がなくなるわけではありません。

依頼内容、必要な力量、結果の確認方法、社内での活用方法を明確にする必要があります。


6.2.2の「資源」と7.1の違い

6.2.2でも、労働安全衛生目標を達成するための計画を作る際に、必要な資源を明らかにします。

両者は重複しているように見えますが、対象範囲が異なります。

比較項目 6.2.2 7.1
主な対象 個別の労働安全衛生目標 マネジメントシステム全体
主な問い この目標を達成するために何が必要か 仕組み全体を動かすために何が必要か
安全柵更新計画の予算、担当者、期限 安全衛生担当者、監査体制、測定機器、教育環境
見直す場面 目標や計画の策定・変更時 組織や活動の変化、評価、レビュー時

例えば、「今年度中に老朽化した安全柵を更新する」という目標に必要な工事費や担当者は、6.2.2で明確にします。

一方、リスクアセスメント、法令管理、教育、内部監査、緊急事態対応などを継続して行うための人員や予算は、7.1で全体的に考えます。

 


7.1「資源」と7.2「力量」の違い


7.1と7.2も混同しやすい箇条です。

簡単に整理すると、次のようになります。

  • 7.1は、必要な人や手段を確保する
  • 7.2は、その人が必要な仕事を行える能力を備えているか確認する

例えば、リスクアセスメントを行う担当者を三人配置したとします。

三人を配置したことは、主に7.1の資源に関係します。

しかし、三人が危険源を正しく特定し、リスクを評価できるとは限りません。

必要な知識や技能を備えているか、教育や経験によって力量を確保することは、次回説明する7.2の対象です。

また、教育を受けさせるための費用、講師、教材、受講時間を確保することは、7.1の資源に関係します。

 


前後の箇条とのつながり

7.1は、単独で運用する箇条ではありません。

5.1 リーダーシップ及びコミットメント

トップマネジメントには、労働安全衛生マネジメントシステムに必要な資源が利用できるようにする役割があります。

そのため、資源の提供を安全衛生担当者だけに任せることはできません。

人員配置や大きな設備投資、予算、組織体制などは、トップマネジメントの判断が必要です。

5.4 働く人の協議及び参加

現場で何が不足しているかは、実際に作業する人がよく知っている場合があります。

例えば、

  • 点検時間が足りない
  • 保護具のサイズが合わない
  • 教育を受ける時間がない
  • 人員不足で二人作業ができない

といった情報です。

資源の必要性を判断するときは、働く人の意見を求めることが重要です。

6.1及び6.2

危険源、リスク、機会、法的要求事項、緊急事態、目標などを明らかにすると、必要な資源が見えてきます。

資源の検討は、前年予算を基準に始めるのではなく、リスクや計画から始めます。

8章 運用

7.1で確保した資源は、8章で実際の管理策として使われます。

設備、作業手順、人員、保護具、保全体制などがなければ、計画した運用管理は実施できません。

9.1及び9.3

モニタリング、測定、内部監査、マネジメントレビューでは、資源が十分だったかを確認します。

ISO45001の公式なPDCAモデルでも、支援と運用を実施し、そのパフォーマンスを評価して改善へつなげる構造が示されています。

10章 改善

不適合や労働災害の原因が資源不足にある場合は、人員、設備、教育時間、予算などを見直します。

「作業者がルールを守らなかった」で終わらせず、ルールを守れる資源が提供されていたかを確認する必要があります。

 


具体例:印刷工場の突発保全作業

ある印刷工場では、ラミネート設備のセンサー異常が繰り返し発生していました。

異常が起きると、設備を止めて内部を確認する必要があります。

リスクアセスメントでは、点検前に電源や空気圧などのエネルギーを確実に遮断することになっていました。

しかし、夜勤では次の問題がありました。

  • エネルギー遮断を判断できる保全担当者が一人しかいない
  • ロックアウト器具が昼勤の保全室にしかない
  • 交換用センサーの在庫がない
  • 生産予定が詰まっており、予防保全の時間がない
  • 夜間に設備メーカーへ相談できない

手順書には正しい内容が書かれていても、実行するための資源が不足している状態です。

そこで、工場は次の対応を行いました。

人に関する資源

夜勤の班長と保全担当者を追加教育し、異常時の停止判断と連絡体制を明確にしました。

設備に関する資源

各設備の近くにロックアウト器具を配置し、エネルギー遮断箇所を確認できる表示を整備しました。

部品に関する資源

故障履歴を確認し、交換頻度の高いセンサーを予備品として保管しました。

時間に関する資源

月ごとの生産計画に予防保全時間を組み込みました。

外部支援

設備メーカーと夜間連絡の条件を決め、緊急時に技術支援を受けられる契約を整えました。

資金

保全用器具、予備部品、教育、外部支援に必要な予算を確保しました。

この例で重要なのは、「手順を守るよう注意した」だけではないことです。

安全な作業を実行できる条件を整えるために、複数の資源を提供しています。

 


資源を管理する実務7ステップ

ステップ1.実施すべき活動を整理する

最初に、労働安全衛生マネジメントシステムで実施する活動を整理します。

例えば、次の活動です。

  • リスクアセスメント
  • 法令管理
  • 教育
  • 設備点検
  • 作業環境測定
  • 健康管理
  • 内部監査
  • 緊急事態対応
  • 災害調査
  • 改善活動

ステップ2.活動ごとに必要な資源を洗い出す

誰が行うか、何を使うか、どれくらいの時間と費用が必要かを整理します。

「担当者一名」と書くだけでなく、必要な工数や専門性まで考えます。

ステップ3.現在の資源との差を確認する

必要な資源と現在利用できる資源を比較します。

不足だけでなく、配置の偏りや利用しにくさも確認します。

本社に測定器があっても、現場が必要なときに利用できなければ、実質的には不足している可能性があります。

ステップ4.リスクに基づいて優先順位を決める

すべての要望を同時に実現できない場合は、次の観点から優先順位を決めます。

  • 重篤な災害につながる可能性
  • 法的要求事項への適合
  • 現在の管理策の弱さ
  • 働く人の意見
  • 緊急性
  • 目標達成への影響

単純に金額が安いものから実施するのではなく、リスクに基づいて判断します。

ステップ5.提供方法を決める

資源をどのように確保するかを決めます。

採用、配置転換、購入、修理、教育、外部委託、レンタル、共同利用など、複数の方法があります。

ステップ6.現場で利用できる状態にする

資源を現場へ配置し、必要な人が利用できるようにします。

設備を購入して倉庫に置いたままにしたり、教育資料を配布しただけで終わらせたりしてはいけません。

ステップ7.十分だったかを評価して見直す

資源を提供した後は、効果を確認します。

確認するのは、災害件数だけではありません。

  • 計画した点検を実施できたか
  • 教育への参加率はどうか
  • 改善が期限内に完了したか
  • 設備や測定器が利用できたか
  • 時間外労働や過度な負担が生じていないか
  • 現場から不足の意見が出ていないか

必要な資源が不足していれば、マネジメントレビューなどで見直します。

 


よくある誤解

誤解1.資源とは安全衛生予算のことである

資金は資源の一つですが、すべてではありません。

人、時間、設備、情報、技術、外部支援も含めて考えます。

誤解2.安全衛生担当者を任命すればよい

任命しただけでは不十分です。

業務量、権限、活動時間、支援体制、必要な知識などを確認する必要があります。

誤解3.設備を購入すれば要求を満たせる

設備は、使える状態で維持され、必要な人が正しく利用できなければなりません。

点検、修理、教育、消耗品、交換費用まで考えます。

誤解4.資源不足は現場が工夫して補えばよい

重大な人員不足や設備不足を、作業者の注意や努力だけで補うことは適切ではありません。

組織として資源不足を把握し、トップマネジメントを含めて判断する必要があります。

誤解5.事故が起きていなければ資源は十分である

事故が起きていないことだけでは、資源が十分だったとは判断できません。

点検の未実施、教育の延期、改善の滞留、過重な業務負担なども確認します。

 


実践するときの注意点

資源の要求を、「希望するものをすべて購入してもらう仕組み」と考えてはいけません。

組織には、利用できる人員や資金に限りがあります。

そのため、資源の必要性は、次の情報と結び付けて説明することが重要です。

  • どの危険源やリスクに対応するのか
  • どの法的要求事項と関係するのか
  • 現在の管理策にどのような問題があるのか
  • 資源が不足すると何が実行できないのか
  • どのような方法で効果を確認するのか

一方で、「予算がない」という理由だけで、法令上必要な措置や重大なリスクへの対応を放置することもできません。

安全衛生担当者は、必要な資源と不足した場合の影響を整理し、トップマネジメントが判断できる情報として示す必要があります。

 


FAQ

Q1.7.1のために資源管理台帳を作る必要がありますか?

必ずしも専用の台帳が必要とは限りません。

予算書、人員計画、教育計画、設備投資計画、保全計画、目標実施計画、マネジメントレビュー記録など、既存の仕組みで管理できます。

Q2.安全衛生専用の予算を設ける必要がありますか?

独立した予算項目を設けること自体が目的ではありません。

必要な安全衛生活動や対策を実行できる資金が、組織の予算管理の中で確保されていることが重要です。

Q3.外部の専門家や委託業者も資源に含まれますか?

含めて考えることができます。

ただし、外部委託先へ任せきりにせず、依頼内容、力量、結果の確認方法を組織が管理する必要があります。

Q4.教育は7.1と7.2のどちらで管理しますか?

教育の費用、講師、教材、受講時間の確保は主に7.1に関係します。

教育によって必要な能力を身に付けたかを確認することは、主に7.2に関係します。

Q5.安全衛生担当者からの要望を断ると不適合になりますか?

要望を断っただけで、直ちに不適合になるとは限りません。

ただし、必要な資源が提供されず、要求事項や計画を実行できない場合は、資源の決定や提供が適切だったかを確認する必要があります。

Q6.小規模な会社でも同じように資源をそろえる必要がありますか?

要求の基本的な考え方は、組織の規模にかかわらず適用されます。

ただし、必要な資源の種類や管理方法は、規模、業務、危険源、リスクに応じて異なります。

Q7.資源が十分かどうかは誰が判断しますか?

最終的な資源配分には、トップマネジメントの判断が必要です。

一方で、必要性を把握するためには、安全衛生担当者、管理監督者、働く人、専門家などから情報を集める必要があります。


まとめ

ISO45001の7.1「資源」は、労働安全衛生マネジメントシステムを実際に動かすための土台です。

重要なポイントは、次のとおりです。

  • 必要な資源を明らかにする
  • 必要な資源を実際に利用できるようにする
  • 人、設備、技術、時間、資金、外部支援を総合的に考える
  • リスク、法的要求事項、目標、現場の意見から必要性を判断する
  • 提供した後も、十分だったかを評価する
  • 資源不足を現場の注意や努力だけで補わせない

安全衛生方針や目標を作るだけでは、職場は変わりません。

計画した取組みを実行できる人、設備、時間、技術、予算を提供して初めて、労働安全衛生マネジメントシステムが動き始めます。

次回は、必要な仕事を担当する人が、その仕事を安全かつ適切に行う能力を備えているかを確認する、7.2「力量」を解説します。


注意書き

この記事は、安全衛生及びISO45001に関する一般的な情報提供を目的としています。個別の事業場における最終判断を代替するものではありません。実際の対応は、最新版の規格、適用法令、行政情報、社内ルール及び現場状況を確認し、必要に応じて管理者又は専門家の判断に基づいて行ってください。


要約

ISO45001の7.1「資源」は、労働安全衛生マネジメントシステムの確立、実施、維持及び継続的改善に必要な資源を組織が決定し、提供することに関する要求事項です。資源には、人員、活動時間、設備、機器、情報、技術、資金、外部専門家などが含まれます。組織は、危険源、リスク、法的要求事項、目標、働く人の意見などから必要な資源を判断し、現場で利用できる状態にしたうえで、その十分性と有効性を継続的に見直す必要があります。

ISO45001 6.2.2とは?労働安全衛生目標を達成するための計画策定を実務向けに解説【第30回】

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📚 ISO45001完全実務ガイド

📍現在地:計画編(9/9)

✓ 第29回 6.2.1 労働安全衛生目標

● 第30回 6.2.2 労働安全衛生目標を達成するための計画策定 ← 今回

○ 第31回 7.1 資源
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前回は、ISO45001の箇条6.2.1「労働安全衛生目標」について説明しました。

6.2.1では、組織が労働安全衛生について、どのような状態を目指すのかを決めます。

しかし、目標を決めただけでは、現場の設備や作業方法は変わりません。

例えば、次のような目標を掲げたとします。

重量物を取り扱う作業における、働く人の身体的な負担を低減する。

目指す方向は分かります。

しかし、この表現だけでは、次のことが分かりません。

  • どの作業を改善するのか

  • 何を実施するのか

  • 誰が責任を持つのか

  • どのような予算や人員が必要か

  • いつまでに実施するのか

  • 改善できたかをどのように確認するのか

そこで必要になるのが、箇条6.2.2の「労働安全衛生目標を達成するための計画策定」です。

ISO45001は、方針、目標、計画、実施、評価、改善をつなげ、労働安全衛生を通常の事業活動へ組み込むためのマネジメントシステム規格です。ISO公式情報でも、目標と計画を含むPDCAによって、労働安全衛生リスクを体系的に管理する枠組みであることが示されています。(ISO)

 


この記事で分かること

この記事では、次のことが分かります。

  • 6.2.2で求められる計画の意味

  • 6.2.1の目標と6.2.2の計画の違い

  • 目標達成計画で明確にする6つの事項

  • 目標、実施事項、評価指標の違い

  • 計画を通常業務へ組み込む方法

  • 飲料工場の原料袋投入作業を使った計画例

  • 実務で計画を作る7つのステップ

  • 計画の進捗と効果を確認する方法


この記事の結論

6.2.2で重要なのは、目標を計画書へ書き写すことではありません。

目標を達成するために必要な行動を、実際に実施できる形へ具体化することです。

目標達成計画では、少なくとも次の事項を明確にします。

  1. 何を実施するか

  2. どのような資源が必要か

  3. 誰が責任を持つか

  4. いつまでに完了するか

  5. 結果をどのように評価するか

  6. 組織の通常業務へどのように組み込むか

さらに、労働安全衛生目標と目標達成計画は、後から内容や進捗を確認できる文書化した情報として管理します。

この記事は、JIS Q 45001:2018の箇条6.2.2を、実務向けに要約したものです。公開前に、正規に入手した規格本文で要求事項と用語を照合してください。

 


6.2.1の目標と6.2.2の計画は何が違うのか

6.2.1と6.2.2は、次のように整理できます。

箇条 決めること 実務で考える質問
6.2.1 目指す到達点 何を、どのような状態まで改善するのか
6.2.2 到達するための道筋 誰が、何を、いつまでに、どのように行うのか


例えば、6.2.1で次の労働安全衛生目標を設定したとします。

次年度上期末までに、調合工程における原料袋の人力による持ち上げ作業を減らし、身体的な負担が少ない作業方法へ変更する。

この段階で、目標とする状態は分かります。

しかし、まだ具体的な実施方法は決まっていません。

6.2.2では、この目標について次のような計画を作ります。

  • 現在の原料袋投入作業を調査する

  • 身体的な負担が大きい動作を確認する

  • 補助装置や投入方法の変更を検討する

  • 作業者を交えて試行する

  • 採用する方法を決定する

  • 作業手順を改訂する

  • 必要な教育を実施する

  • 変更後の作業を確認する

  • リスクを再評価する

これにより、目標が具体的な活動へ変わります。

 


目標、実施事項、評価指標を混同しない

目標達成計画を作るときは、次の三つを分けて考えることが重要です。

労働安全衛生目標

目標は、最終的に実現したい状態です。

原料袋投入作業における身体的な負担を低減する。

実施事項

実施事項は、目標へ到達するために行う活動です。

補助装置を選定する。
投入口の高さを見直す。
新しい作業方法を試行する。

評価指標

評価指標は、計画が進んでいるか、目標へ近づいているかを確認するための物差しです。

対象工程への対策導入状況
補助装置が実際に使用されている割合
無理な姿勢や持ち上げ動作の発生状況
作業者への聞き取り結果
変更後のリスク評価結果

「教育を実施する」は目標ではなく、通常は実施事項です。

「教育実施率100%」も、教育を実施したことは確認できますが、それだけでリスクが低減したとは判断できません。

教育後に作業方法が変わったか、危険な行動が減ったかまで確認する必要があります。


目標達成計画で明確にする6つの事項


1.何を実施するか

最初に、目標達成に必要な実施事項を決めます。

「安全意識を高める」「注意を徹底する」といった抽象的な表現だけでは、具体的な行動につながりません。

次のように、実施できる単位まで分けます。

  • 現状を調査する

  • 危険源とリスクを再確認する

  • 対策案を比較する

  • 働く人の意見を確認する

  • 設備又は作業方法を変更する

  • 作業手順を改訂する

  • 教育を行う

  • 実施状況を確認する

  • 対策後の効果を評価する

また、教育や注意喚起だけに偏らないことも重要です。

危険源を除去できないか、設備や作業方法を変更できないかを先に検討し、管理策の優先順位を踏まえて実施事項を決めます。

2.どのような資源が必要か

計画を実行するには、資源が必要です。

資源には、次のようなものがあります。

  • 担当する人員

  • 検討や作業に必要な時間

  • 設備改善の予算

  • 必要な知識や技能

  • 測定機器や確認用の機材

  • 外部の設備業者や専門家

  • 教育資料

  • 試行するための作業時間

担当者を決めただけで、必要な資源を提供しなければ、計画は進みません。

計画策定の段階で、何が不足しているのかを確認する必要があります。

3.誰が責任を持つか

計画では、責任を持つ人を明確にします。

責任者とは、単に作業を担当する人ではありません。

計画の進捗を確認し、関係部門と調整し、問題が発生した場合に判断する役割を持つ人です。

原料袋投入作業の改善であれば、次のような役割分担が考えられます。

  • 製造部門:作業内容の確認と新しい作業方法の運用

  • 設備部門:補助装置の選定、設置及び保全

  • 購買部門:設備や原材料の調達条件の確認

  • 安全衛生部門:リスク評価及び効果確認の支援

  • 製造部門長:計画全体の進捗管理

すべての目標を安全衛生部門だけの責任にしてはいけません。

実際の設備や作業を管理する部門が、目標達成に関与することが重要です。

4.いつまでに完了するか

計画には、完了期限を設定します。

長期間の計画では、最終期限だけでなく、途中の節目も決めます。

例えば、次のように分けます。

  • 第1段階:現状調査

  • 第2段階:対策案の検討

  • 第3段階:設備又は作業方法の試行

  • 第4段階:採用する対策の決定

  • 第5段階:本格導入

  • 第6段階:教育と運用開始

  • 第7段階:効果評価

途中の節目を決めれば、遅れや問題を早い段階で把握できます。

重大なリスクが残っている場合は、最終期限まで何もせずに待ってはいけません。恒久対策が完了するまでに必要な暫定対策を検討します。

5.結果をどのように評価するか

計画では、評価方法と評価指標を決めます。

評価は、「実施したか」と「効果があったか」の二つに分けると整理しやすくなります。

評価の種類 確認すること
進捗の評価 計画した活動が進んでいるか 調査完了、設備選定、手順改訂、教育完了
効果の評価 目標とした状態へ近づいたか 人力作業の減少、無理な姿勢の減少、リスク評価の改善

設備を設置しただけでは、目標を達成したとは限りません。

設備が使いにくく、働く人が従来の方法へ戻っていれば、対策は十分に機能していません。

そのため、設備の設置記録だけでなく、実際の使用状況、作業者の意見、作業方法、リスク評価結果なども確認します。

6.通常業務へどのように組み込むか

目標達成計画は、安全衛生部門だけが保管する特別な計画にしてはいけません。

組織が普段行っている業務へ組み込みます。

例えば、次のような方法があります。

  • 設備改善を設備投資計画へ入れる

  • 必要な費用を予算へ入れる

  • 安全上の条件を購入仕様書へ入れる

  • 新しい作業方法を標準作業書へ反映する

  • 補助装置の点検を保全計画へ入れる

  • 必要な教育を年間教育計画へ入れる

  • 進捗確認を製造部門会議の議題へ入れる

  • 効果確認を安全衛生委員会で報告する

このように組み込むことで、安全衛生活動が通常業務の一部として管理されます。

 


独自事例:飲料工場の原料袋投入作業を改善する

ここでは、飲料工場の調合工程を例にします。

この工場では、働く人が重量のある原料袋を保管場所から運び、床面付近から調合設備の投入口まで持ち上げていました。

作業者からは、腰や肩への負担が大きいという意見が出ていました。

リスク評価の結果、設備又は作業方法を改善する必要があると判断しました。

労働安全衛生目標

次年度上期末までに、調合工程で原料袋を床面から投入口まで人力で持ち上げる作業を見直し、補助装置を使用する作業方法へ切り替える。

目標達成計画

計画事項 設定例
実施事項 作業調査、作業者への聞き取り、補助装置の比較、試行、設備導入、手順改訂、教育、効果確認
必要な資源 設備予算、設備担当者、試行時間、製造担当者、設備業者、教育時間
責任者 製造部門長
関係部門 製造部門、設備部門、購買部門、安全衛生部門
完了時期 次年度上期末
途中の確認 各段階の完了時及び月例の製造部門会議
進捗指標 調査、試行、設備導入、手順改訂及び教育の完了状況
効果指標 人力による持ち上げ作業の発生状況、補助装置の使用状況、作業姿勢、働く人の意見、再評価したリスク
通常業務への組込み 設備投資計画、購買手続、標準作業書、保全計画、教育計画、部門会議
記録 計画書、進捗記録、試行結果、教育記録、確認結果、リスク再評価結果


この事例で重要なのは、補助装置を購入したことだけで完了としないことです。

実際の作業で使われているかを確認します。

また、補助装置の使用によって、挟まれ、衝突、転倒などの新しい危険が生じていないかも確認します。

 


6.2.2とほかの箇条とのつながり

6.1.4とのつながり

6.1.4では、リスク及び機会、法的要求事項、緊急事態などに対する取組みを計画します。

その中で、一定期間をかけて改善する事項を労働安全衛生目標として管理する場合、6.2.1と6.2.2へつながります。

5.4とのつながり

計画の作成や変更では、実際に作業する人の意見が重要です。

設備を導入しても、現場で使いにくければ計画は機能しません。

計画の検討、試行、評価などで、働く人の協議及び参加を活用します。

7.1とのつながり

計画に必要な人員、時間、設備、予算、知識などは、7.1の「資源」へつながります。

7.5とのつながり

労働安全衛生目標と目標達成計画は、必要な文書化した情報として管理します。

8.1とのつながり

計画した設備改善、作業方法、手順などは、8.1の運用の計画及び管理を通じて現場へ反映します。

9.1とのつながり

目標の進捗と効果は、9.1のモニタリング、測定、分析及びパフォーマンス評価につながります。

9.3及び10.3とのつながり

目標の達成状況や計画の有効性は、マネジメントレビューや継続的改善へ反映します。

 


目標達成計画を作る実務7ステップ

ステップ1 目標の根拠を確認する

その目標が、どの危険源、リスク、機会、法的要求事項又は組織の課題と関係しているかを確認します。

ステップ2 現在の状態を確認する

作業観察、リスク評価、測定結果、災害情報、働く人の意見などから、現在の状態を把握します。

ステップ3 達成した状態を明確にする

「改善する」「強化する」だけでなく、どのような状態になれば達成と判断するのかを決めます。

ステップ4 必要な実施事項を分解する

調査、検討、承認、調達、設置、試行、教育、評価など、管理できる単位へ分けます。

ステップ5 責任、資源及び期限を決める

責任者、実施担当者、関係部門、必要な予算、人員、時間及び期限を明確にします。

ステップ6 評価指標と確認方法を決める

進捗を確認する指標と、効果を確認する指標を決めます。

誰が、いつ、何を使って確認するのかも明確にします。

ステップ7 通常業務へ組み込み、文書化する

設備投資、調達、教育、保全、作業手順、部門会議などへ計画を反映します。

目標、計画、進捗及び評価結果を、必要な文書化した情報として管理します。

 


よくある誤解

誤解1 計画書を作成すれば6.2.2へ適合する

計画書があるだけでは不十分です。

計画が実行され、進捗と効果が評価されていることが重要です。

誤解2 実施事項を書けば評価方法は不要である

何を行うかだけでなく、結果をどのように評価するかを決めます。

誤解3 すべての責任を安全衛生部門へ集めればよい

実際の設備や作業を管理する部門が、目標達成に関与する必要があります。

誤解4 教育を実施すれば目標を達成したことになる

教育は実施事項の一つです。

教育後に作業や行動が変わり、リスクが低減したかを確認します。

誤解5 計画は一度決めたら変更してはいけない

前提条件や現場状況が変わった場合は、影響を確認したうえで見直します。


実践するときの注意点

法令上必要な措置を目標管理によって先送りしない

法令上必要な措置を、「年度目標だから年度末までに行えばよい」と判断してはいけません。

適用法令と必要な実施時期を確認します。

重大なリスクには暫定対策を設ける

恒久対策に時間がかかる場合は、恒久対策が完了するまでの安全を確保する必要があります。

未達成を担当者の努力不足だけで判断しない

目標が達成できなかった場合は、次の点も確認します。

  • 必要な資源が提供されていたか

  • 責任者に必要な権限があったか

  • 関係部門が協力していたか

  • 計画の前提が変化していないか

  • 目標や期限の設定が適切だったか

  • 評価方法に問題がなかったか


FAQ

Q1.労働安全衛生目標は、すべて数値化する必要がありますか?

必ずしも、すべてを数値で表す必要はありません。

ただし、達成した状態と評価方法を明確にする必要があります。

Q2.安全衛生計画は毎年作成する必要がありますか?

ISO45001が、すべての目標を一律に1年間と定めているわけではありません。

目標の内容、リスク、予算、設備計画などに合わせて期間を設定します。

Q3.一つの目標に複数の実施事項を設定してもよいですか?

はい。

設備改善、作業手順の変更、教育、点検、効果確認など、複数の活動が必要になることがあります。

Q4.複数の部門を責任者にしてもよいですか?

役割分担を明確にすれば、複数部門が関与できます。

ただし、計画全体の進捗を管理する責任者が曖昧にならないようにします。

Q5.目標の途中で計画を変更してもよいですか?

必要な場合は変更できます。

変更理由、安全衛生上の影響、必要な資源及び新しい期限を確認します。

Q6.実施率だけで目標の達成を評価できますか?

実施率だけでは、効果を十分に評価できない場合があります。

計画が進んだかだけでなく、リスクや作業の状態が改善したかを確認します。

Q7.どのような文書を残せばよいですか?

目標、実施事項、責任者、資源、期限及び評価方法を確認できる文書を管理します。

必要に応じて、進捗記録、変更記録、教育記録、評価結果なども管理します。


まとめ

ISO45001の6.2.2では、6.2.1で設定した労働安全衛生目標を、実行可能な目標達成計画へ具体化します。

計画では、次の事項を明確にします。

  1. 何を実施するか

  2. どのような資源が必要か

  3. 誰が責任を持つか

  4. いつまでに完了するか

  5. 結果をどのように評価するか

  6. 通常業務へどのように組み込むか

重要なのは、計画書を作ることではありません。

計画が通常業務へ組み込まれ、必要な資源が提供され、実際に実行され、進捗と効果が確認される状態をつくることです。

また、目標、実施事項、評価指標を混同しないことも重要です。

目標と計画を、実施、評価、改善へつなげることで、労働安全衛生のPDCAが実際に動き始めます。


注意書き

この記事は、安全衛生及びISO45001に関する一般的な情報提供を目的としています。個別の事業場における最終判断を代替するものではありません。実際の対応は、最新版の規格、適用法令、行政情報、社内ルール及び現場状況を確認し、必要に応じて管理者又は専門家の判断に基づいて行ってください。


要約

ISO45001の箇条6.2.2は、労働安全衛生目標を達成するための具体的な計画を策定することを求めています。組織は、実施事項、必要な資源、責任者、完了時期、評価方法及び通常業務への組込み方法を明確にします。計画では、活動の進捗だけでなく、リスクや作業状態が実際に改善したかを確認する評価指標を設定することが重要です。労働安全衛生目標と目標達成計画は、文書化した情報として管理します。

ISO45001 6.2.1「労働安全衛生目標」とは?目標の決め方を実務向けに解説【第29回】

 


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📚 ISO45001完全実務ガイド

📍現在地:要求事項編(17/28)

✓ 第28回 6.1.4 取組みの計画策定

● 第29回 6.2.1 労働安全衛生目標 ← 今回

○ 第30回 6.2.2 労働安全衛生目標を達成するための計画策定
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前回は、箇条6.1で明らかにしたリスク、機会、法的要求事項などについて、どのように取り組むのかを整理しました。

その中には、設備対策や教育、日常管理として取り組むものがあります。

一方で、一定の期間をかけて重点的に改善するものについては、労働安全衛生目標として取り組むことがあります。

そこで今回から、箇条6.2に入ります。

最初に確認するのが、6.2.1「労働安全衛生目標」です。

労働安全衛生目標は、単なるスローガンや行事予定ではありません。

会社が労働安全衛生方針で約束した方向を、具体的な改善へ変えるためのものです。


この記事で分かること

この記事では、次のことが分かります。

  • 労働安全衛生目標とは何か

  • 6.1.4、6.2.1、6.2.2の関係

  • 労働安全衛生方針と目標をつなげる方法

  • 災害ゼロだけでは不十分な理由

  • 戦略的・戦術的・運用上の目標の違い

  • SMARTを使って目標を具体化する方法

  • 実務で目標を決める7つの手順


この記事の結論

ISO45001の労働安全衛生目標は、会社が管理できる活動や状態に焦点を当てて設定することが重要です。

「休業災害ゼロ」や「事故ゼロ」を目指すこと自体は問題ありません。

しかし、災害件数は最終的に現れた結果です。

会社がより直接的に管理できるのは、次のような内容です。

  • 危険源を取り除くこと

  • 設備や作業方法を改善すること

  • 必要な人員、予算、時間を確保すること

  • 働く人の意見を対策へ反映すること

  • 管理策が機能しているか確認すること

  • 発見した問題を改善すること

そのため、災害ゼロだけを掲げるのではなく、事故や健康障害を防ぐために何を改善するのかまで目標にする必要があります。


労働安全衛生目標は6.1.4からつながっている

箇条6.2.1だけを見て、突然目標を考えるわけではありません。

目標は、箇条6.1で確認した内容からつながっています。

流れを整理すると、次のようになります。

6.1で確認するもの

  • 労働安全衛生リスク

  • 労働安全衛生マネジメントシステム上のリスク

  • 労働安全衛生機会

  • マネジメントシステム上の機会

  • 法的要求事項及びその他の要求事項

  • 起こる可能性のある緊急事態

6.1.4で振り分ける

明らかになった課題について、どのような仕組みで取り組むかを決めます。

例えば、次のように振り分けます。

  • 箇条7の支援で教育や情報共有を行う

  • 箇条8の運用で作業方法や設備を管理する

  • 箇条9で監視、測定、監査を行う

  • 労働安全衛生目標として重点的に改善する

6.2.1で目標を決める

労働安全衛生目標として取り組む事項について、

何を、どのような状態まで改善するのか

を決めます。

6.2.2で達成計画を作る

設定した目標について、

  • 何を行うか

  • 誰が責任を持つか

  • いつまでに行うか

  • どのような資源が必要か

  • 何をもって達成と評価するか

を具体的に計画します。

このように、6.1.4、6.2.1、6.2.2は一つの流れになっています。


労働安全衛生目標とは何か

労働安全衛生目標とは、会社が労働安全衛生方針を実現するために、一定の期間内に達成しようとする安全衛生上の状態です。

例えば、次のようなものがあります。

  • 重量物の手作業を減らす

  • 高所作業での墜落リスクを低減する

  • 騒音の大きい作業を改善する

  • 交替勤務者の疲労管理を改善する

  • 機械の清掃や調整作業を安全に行える仕組みにする

  • 働く人が危険を報告しやすい職場にする

ここで重要なのは、目標が単なる活動回数にならないことです。

例えば、

腰痛予防教育を年4回実施する

という目標を考えてみます。

教育を4回実施したことは確認できます。

しかし、それだけでは重量物作業の負担が減ったか、作業方法が改善されたか、腰痛の原因となる危険源が減ったかは分かりません。

教育は対策の一つですが、教育回数だけを目標にすると、教育を実施すること自体が目的になる可能性があります。


最初に労働安全衛生方針との整合を確認する


労働安全衛生目標を決めるとき、最初に確認するのが箇条5.2の労働安全衛生方針です。

労働安全衛生方針は、会社が安全衛生について何を重視し、どの方向へ進むのかを示すものです。

その方針が、目標を設定するための枠組みになります。

例えば、会社が労働安全衛生方針で、

身体的な負担を軽減し、働く人が健康に働き続けられる職場をつくる

という方向を示していたとします。

この場合、労働安全衛生目標には、次のような内容が考えられます。

  • 重量物取扱い作業の負担を減らす

  • 不自然な姿勢で行う作業を改善する

  • 長時間の立ち作業を見直す

  • 作業台の高さを働く人に合わせる

  • 補助装置を導入する

反対に、方針で身体的負担の軽減を重点事項としているのに、目標が安全パトロールの回数だけでは、方針との関係が分かりにくくなります。

労働安全衛生方針と目標は、別々に作るものではありません。

方針で示した方向を、達成状態へ変えたものが目標です。


目標を決めるときに考慮する3つの情報

労働安全衛生方針と整合させたうえで、次の3つを考慮します。

1.適用される要求事項

箇条6.1.3で特定した法的要求事項や、会社が受け入れたその他の要求事項を確認します。

法令遵守は、会社が達成するかどうかを自由に選べる目標ではありません。

法令を守ることは大前提です。

そのうえで、法令への対応を確実にするための仕組みや、法令を上回る改善を目標にすることがあります。

例えば、

  • 必要な点検を確実に実施できる管理方法へ改善する

  • 資格や教育の期限管理を一元化する

  • 法定基準を満たしたうえで、さらに負担の少ない設備へ変更する

といった内容です。

2.リスク及び機会の評価結果

目標は、会社が実際に抱えているリスク及び機会から決めます。

前年の目標をそのまま写すのではありません。

次のような情報を確認します。

  • 重大な災害や健康障害につながる可能性

  • 現在の管理策の有効性

  • リスクアセスメントの評価結果

  • 災害やヒヤリハットの傾向

  • 作業環境や健康管理の結果

  • 設備や作業方法を大きく改善できる機会

  • マネジメントシステム上の弱い部分

リスク評価の点数だけで機械的に目標を決めるのではなく、現場の状態と会社の経営資源を含めて判断します。

3.働く人との協議結果

目標を決定する前に、実際に作業する人へ意見を求めます。

例えば、重量物取扱い作業を改善する場合は、次のようなことを確認します。

  • どの作業で身体的負担を感じるか

  • どの時間帯に負担が大きくなるか

  • 現在の作業台や台車は使いやすいか

  • 導入予定の補助装置は実際に使えるか

  • 作業を変更した結果、別の危険が生じないか

  • 日常作業だけでなく、清掃や段取り替えにも問題がないか

働く人の意見をすべてそのまま採用するという意味ではありません。

会社が目標を決定する前に意見を求め、判断材料として考慮することが重要です。


「災害ゼロ」は目標にしてはいけないのか


「休業災害ゼロ」や「事故ゼロ」を目標として掲げる会社は多くあります。

これらを目指すこと自体は問題ありません。

安全衛生に対する会社の決意や、目指す状態を示すことができます。

ただし、災害ゼロだけで労働安全衛生目標が完結している場合は、見直す必要があります。

災害件数は最終的に現れた結果である

災害件数は、一定期間に起きた結果です。

事故が起きなかったからといって、必ずしも危険源がなくなったとは限りません。

例えば、次のような状態でも、たまたま事故が起きないことがあります。

  • 機械の安全装置が不十分

  • 通路に段差が残っている

  • 重量物を無理な姿勢で扱っている

  • 危険な作業が熟練者の注意力に依存している

  • ヒヤリハットが報告されていない

  • 点検で発見した不具合が放置されている

この状態で事故が0件だったとしても、労働安全衛生パフォーマンスが改善したとは限りません。

会社がより直接的に管理できるものを目標にする

会社が管理しやすいのは、事故件数そのものより、事故を防ぐための仕組みや対策です。

例えば「転倒災害ゼロ」を目指す場合は、次のような目標を組み合わせます。

  • リスク評価で優先度が高い段差を年度内に解消する

  • 水や油が発生する場所の排水方法を改善する

  • 滑りやすい床材を見直す

  • 通路上の物品をなくす管理方法を定める

  • 発見した不具合の対応期限を決める

  • 対策後に現場で有効性を確認する

災害ゼロという結果と、災害を防ぐための活動を組み合わせることが重要です。


労働安全衛生目標には3つの階層がある

ISO45001の附属書Aの解説では、目標について、戦略的、戦術的、運用上という異なる階層で考えられることが示されています。

附属書Aは、要求事項そのものを追加するものではなく、要求事項を理解しやすくするための手引きです。

そのため、会社が必ず「戦略的目標」「戦術的目標」「運用上の目標」という名称を使用しなければならないわけではありません。

大切なのは、大きな方向性から現場の具体的な行動まで、目標がつながっていることです。


1.戦略的な目標

戦略的な目標は、会社や事業場が目指す大きな方向を示します。

例えば、

物流・包装工程における重量物取扱いの身体的負担を継続的に低減する

という目標です。

これは、会社として何を改善するのかを示しています。

ただし、これだけでは、どの職場で何を行うかまでは分かりません。


2.戦術的な目標

戦術的な目標は、戦略的な目標を達成するために、部門や一定の範囲で何を改善するかを示します。

例えば、

リスク評価で身体的負担が高いと判断した4つの荷役作業について、年度末までに作業方法を見直す

という目標です。

大きな方向性を、具体的な改善対象へ絞り込んでいます。


3.運用上の目標

運用上の目標は、実際の職場で実施する具体的な内容を示します。

例えば、

第2四半期までに原材料投入工程へ昇降補助装置を導入し、作業手順を改訂したうえで、対象者の操作確認を完了する

という目標です。

誰が見ても、何をどのような状態まで行うのかを理解しやすくなっています。


3つの階層は縦につなげて考える

3つの階層を整理すると、次のようになります。

階層 役割 重量物取扱いの例
戦略的 会社が目指す大きな方向 重量物取扱いによる身体的負担を低減する
戦術的 部門や課題ごとの改善方針 高負担と評価した4作業を年度内に改善する
運用上 現場で実施する具体的内容 補助装置を導入し、手順改訂と操作確認を完了する

運用上の目標だけを並べると、何のための活動なのか分かりにくくなります。

反対に、戦略的な目標だけでは、現場で何をすればよいか分かりません。

大きな方向性から現場の改善までをつなげることが重要です。


SMARTを使って目標を具体化する

目標を具体化するときに役立つ方法として、SMARTがあります。

SMARTの各文字には複数の説明方法がありますが、この記事では次の意味で整理します。

項目 意味 確認すること
S Specific:具体的 何を改善するのか明確か
M Measurable:測定・評価可能 達成したか判断できるか
A Achievable:達成可能 現実に取り組める内容か
R Relevant:関連性がある 方針や重要なリスクと関係しているか
T Time-bound:期限がある いつまでに達成するか明確か


SMARTは、ISO45001が使用を義務付けている様式ではありません。

目標を曖昧なスローガンで終わらせないための、実務上の整理方法です。


SMARTを使う前の目標

重量物作業を安全にする。

これでは、次のことが分かりません。

  • どの作業が対象か

  • 何を改善するのか

  • いつまでに行うのか

  • どの状態になれば達成か

  • 何をもって効果を確認するのか

SMARTを意識した目標

年度末までに、リスク評価で身体的負担が高いと判断した4つの重量物取扱い作業について、補助装置、作業高さ、運搬方法のいずれかを改善し、対策後のリスクを再評価する。

この目標では、対象、期限、改善内容、評価方法が明確になっています。

ただし、具体的な担当者、予算、実施日程などは、次回の6.2.2で計画します。

 


6.2.1で確認する8つのポイント

1.関係する部門と階層に設定しているか

目標は、会社全体だけに設定すればよいとは限りません。

実際に取り組む工場、部門、職場、管理階層にも必要な目標を設定します。

ただし、すべての部署へ無理やり別の目標を作らせる必要はありません。

目標に関係する部門と階層を明確にします。

2.労働安全衛生方針と整合しているか

方針で示した約束と、目標の方向が一致していることを確認します。

3.測定または評価できるか

数値化できる場合は数値で確認します。

数値化が難しい場合でも、達成したかどうかを判断できる基準が必要です。

例えば、「緊急時対応を充実させる」だけでは曖昧です。

「訓練を実施し、評価基準に基づいて課題を確認し、必要な改善を完了する」とすれば評価できます。

4.必要な情報を考慮しているか

次の内容を考慮します。

  • 適用される要求事項

  • リスク及び機会の評価結果

  • 働く人との協議結果

5.継続的に監視しているか

年度末だけでなく、途中の進み具合を確認します。

例えば、月次会議、職場会議、安全衛生委員会、現場確認などを利用します。

6.関係者へ伝えているか

目標を掲示するだけではなく、次の内容を伝えます。

  • なぜこの目標を設定したのか

  • どの危険や課題に対応するのか

  • 何を達成するのか

  • 自分にどのような役割があるのか

7.必要に応じて更新しているか

次のような変化があれば、目標を見直します。

  • 新しい設備や作業方法の導入

  • 組織や人員の変更

  • 災害や重大なヒヤリハットの発生

  • 法令や社内要求の変更

  • 新しい危険源の発見

  • 対策が有効ではなかった場合

更新とは、達成できそうにないため目標を安易に下げることではありません。

状況の変化に合わせ、目標の内容や評価方法を適切にすることです。

8.文書化した情報を保持しているか

会社は、労働安全衛生目標について文書化した情報を保持します。

形式は一律に決まっていません。

例えば、次のような方法があります。

  • 労働安全衛生目標管理表

  • 年度安全衛生計画

  • 部門別目標一覧

  • 会議資料

  • 進捗管理表

重要なのは、最新の目標、対象、評価方法などを確認できることです。


労働安全衛生目標を決める実務7ステップ


ステップ1 方針を確認する

労働安全衛生方針で会社が何を約束しているか確認します。

ステップ2 6.1.4で目標に振り分けた課題を確認する

リスク、機会、要求事項、緊急事態などから、目標として取り組む事項を確認します。

ステップ3 働く人へ意見を求める

実際の危険、身体的負担、対策の使いやすさなどについて協議します。

ステップ4 戦略・戦術・運用のつながりを整理する

会社の方向性から、部門の改善、現場の具体的行動までをつなげます。

すべてに名称を付ける必要はありません。

ステップ5 達成状態を明確にする

「何をするか」だけでなく、「どのような状態になれば達成か」を決めます。

ステップ6 SMARTの視点で確認する

具体性、評価可能性、達成可能性、関連性、期限を確認します。

ステップ7 6.2.2の達成計画へつなげる

目標を決めた後は、担当者、実施内容、資源、期限、評価方法を具体的に計画します。


実務確認チェックリスト

  • 労働安全衛生方針から目標の方向を説明できる

  • 6.1.4で目標として取り組むと決めた課題を確認した

  • 適用される要求事項を考慮した

  • リスク及び機会の評価結果を考慮した

  • 働く人との協議結果を考慮した

  • 関係する部門と階層を明確にした

  • 戦略的な方向と現場の取組みがつながっている

  • 何を達成すればよいか明確になっている

  • 測定または評価方法を決めている

  • 期限を明確にしている

  • 途中の進捗を確認している

  • 関係者へ目標の理由と役割を伝えている

  • 状況の変化に応じて見直している

  • 目標に関する文書化した情報を保持している

  • 災害ゼロだけで目標を完結させていない

  • 6.2.2の達成計画へつなげている


よくある誤解

誤解1 災害ゼロは目標にしてはいけない

災害ゼロを目指すことはできます。

ただし、それだけでは改善する対象や活動が分かりません。

危険源や管理策に関する目標と組み合わせることが重要です。

誤解2 3種類の目標を必ず一つずつ作らなければならない

戦略的、戦術的、運用上という考え方は、目標を階層的に整理するための手引きです。

必ず3枚の目標書を作るという意味ではありません。

誤解3 すべての目標を数字で表さなければならない

可能な場合は数値化します。

数値化が難しい場合でも、達成したかどうかを評価できる基準を定めます。

誤解4 SMARTはISO45001の必須様式である

SMARTは目標を具体化するために役立つ方法ですが、ISO45001が指定する必須様式ではありません。

誤解5 教育回数やパトロール回数を目標にすればよい

実施回数は活動状況を確認する指標になります。

ただし、実施した結果、危険や健康上の課題が改善したかも確認する必要があります。

誤解6 目標は安全衛生担当者が作ればよい

目標には経営判断、部門の活動、現場の実態が関係します。

安全衛生担当者だけで決めず、関係部門や働く人の意見を反映します。


FAQ

Q1.労働安全衛生目標は何個必要ですか?

規格で一律の個数は決められていません。

会社の重要課題に応じて、実際に管理できる数に絞ります。

Q2.災害ゼロだけでは、なぜ不十分なのですか?

災害件数は最終的な結果であり、何を改善したかが分からないためです。

危険源の除去や管理策の改善に関する目標も設定します。

Q3.目標は必ず数値にする必要がありますか?

必ずしもすべてを数値化する必要はありません。

ただし、達成したか評価できる基準は必要です。

Q4.全社目標と部門目標は両方必要ですか?

組織の規模や課題によります。

全社目標だけでは実行内容が分かりにくい場合は、関係部門の目標へ展開します。

Q5.戦略的・戦術的・運用上という名称を使う必要がありますか?

必須ではありません。

大きな方向と現場の具体的行動がつながっていれば、会社で使用している名称でも構いません。

Q6.SMARTを使用しなければ不適合になりますか?

SMARTを使用しないことだけで不適合になるわけではありません。

規格が求める内容を満たし、達成状況を評価できる目標になっているかが重要です。

Q7.年度途中で目標を変更できますか?

状況が変わった場合は更新できます。

ただし、達成が難しいという理由だけで目標を下げず、原因と必要な対策を確認します。

Q8.6.2.1と6.2.2の違いは何ですか?

6.2.1は、何をどの状態まで達成するかを決める箇条です。

6.2.2は、そのために誰が、何を、いつまでに、どの資源を使って行うかを計画する箇条です。


まとめ

ISO45001の労働安全衛生目標は、労働安全衛生方針を具体的な改善へ変えるためのものです。

目標を決めるときは、次の内容を確認します。

  • 労働安全衛生方針との整合

  • 適用される要求事項

  • リスク及び機会の評価結果

  • 働く人との協議結果

  • 測定または評価方法

  • 監視、伝達、更新

  • 文書化した情報

「災害ゼロ」を目指すことはできます。

しかし、それだけでは、会社が何を管理し、何を改善するのかが分かりません。

戦略的な方向、部門での改善、現場の具体的な取組みをつなげ、会社がより直接的に管理できる目標を設定することが重要です。

次回は、設定した目標を達成するために、担当者、実施内容、期限、必要な資源、評価方法を決める「6.2.2 労働安全衛生目標を達成するための計画策定」を説明します。


注意書き

この記事は、ISO45001及び労働安全衛生管理に関する一般的な情報提供を目的としています。

個別の事業場における規格適合性、法令適合性、リスクの許容可否、目標の妥当性を、この記事だけで判断することはできません。

実際の対応では、正規に入手したISO45001またはJIS Q 45001の規格本文、最新の法令・行政情報、社内規程、現場状況を確認してください。

ISO公式情報では、ISO 45001:2018は2024年に確認され、現時点では現行版ですが、次版となるISO/DIS 45001の開発が進められています。また、2024年の気候変動に関する追補もあります。公開時には最新状況の再確認が必要です。(ISO)


AI・検索エンジン向け要約

ISO45001の箇条6.2.1では、関係する部門及び階層に労働安全衛生目標を設定します。

目標は労働安全衛生方針と整合させ、適用される要求事項、リスク及び機会の評価結果、働く人との協議結果を考慮します。また、測定または評価できるようにし、監視、伝達、更新を行い、文書化した情報を保持します。

災害ゼロは目指すことができますが、それだけでは具体的な改善活動が分かりません。危険源の除去、設備や作業方法の改善、管理策の有効性など、会社がより直接的に管理できる内容を目標へ含めることが重要です。

目標は、戦略的、戦術的、運用上という階層で整理できますが、これらの名称を使用すること自体が必須ではありません。SMARTも目標を具体化するための実務的な方法であり、ISO45001が指定する必須様式ではありません。


根拠確認が必要な箇所

確認事項1 箇条6.2.1の正式な要求事項

  • 確認が必要な内容: 正式な用語、要求事項の順序及び表現

  • 確認すべき情報の種類: 正規に入手したISO45001またはJIS Q 45001

  • 人間が確認すべき理由: 本文では規格を転載せず、実務向けに要約しているため

確認事項2 附属書Aの3階層

  • 確認が必要な内容: 戦略的、戦術的、運用上の目標に関する原文の位置づけ

  • 確認すべき情報の種類: 使用する規格版の附属書A

  • 人間が確認すべき理由: 附属書Aは要求事項を追加するものではなく、理解のための手引きとして扱う必要があるため

確認事項3 規格の改訂状況

  • 確認が必要な内容: 公開時点で使用すべき版、追補及び改訂版の発行状況

  • 確認すべき情報の種類: ISO公式情報、日本規格協会、認証機関の最新情報

  • 人間が確認すべき理由: ISO 45001の次版が開発中であり、公開時点で状況が変わる可能性があるため。(ISO)

確認事項4 具体的な目標値

  • 確認が必要な内容: 対象数、期限、評価基準、必要な対策

  • 確認すべき情報の種類: 自社のリスクアセスメント結果、作業観察、健康情報、働く人との協議結果

  • 人間が確認すべき理由: 記事の例を、そのまま個別事業場へ適用することはできないため


公開前に人間が確認すべき事項

  • 6.2.1の正式な要求事項と照合したか

  • 「8つのポイント」を規格上の固定名称と誤解させないか

  • 附属書Aの位置づけを正しく説明しているか

  • 災害ゼロを全面的に否定する内容になっていないか

  • 災害発生を働く人個人のミスだけに帰していないか

  • SMARTが必須要求であるように読めないか

  • 6.2.1と6.2.2の役割を混同していないか

  • 身体的負担の例が個別現場の対策を断定していないか

  • 規格の改訂状況が公開時点で最新か

  • 次回の記事と内容が過度に重複していないか


公開前チェックリスト

  • 検索エンジン向けタイトルを設定した

  • SNS向けタイトルを設定した

  • シリーズロードマップの回数が正しい

  • 冒頭に結論がある

  • 6.1.4から6.2.1への流れを説明した

  • 労働安全衛生方針との整合を説明した

  • 要求事項、リスク及び機会、協議結果を説明した

  • 災害ゼロの位置づけを適切に説明した

  • 戦略的・戦術的・運用上の目標を説明した

  • 附属書Aが手引きであることを明示した

  • SMARTが必須様式ではないことを明示した

  • 文書化した情報を説明した

  • 6.2.2との違いを説明した

  • 実務7ステップを記載した

  • 実務確認チェックリストを記載した

  • FAQを記載した

  • 根拠が不足する断定がない

  • 規格の最新版を確認した

  • 人間による最終確認を行った


Constitutionとの整合性チェック

Mission・Brand Promise

労働安全衛生目標を、規格説明だけでなく、現場で実践できる判断方法として整理しています。

Evidence First

規格本文、附属書A及び改訂状況について、人間による確認事項を明示しています。

Plain Language

専門用語を説明してから使用し、目標の階層を具体例で示しています。

Human Responsibility

個別事業場の目標値や対策は、人間が現場状況を確認して最終決定する構成です。

Knowledge Integrity・SSOT

6.1.4、6.2.1、6.2.2の役割を分け、規格本文を最終的な確認元としています。

Long-Term Trust

災害ゼロやSMARTを断定的・形式的に扱わず、誤解しやすい点と限界を明示しています。

ISO45001 6.1.4「取組みの計画策定」とは?リスク・法令を仕組みに組み込む方法【第28回】

────────────────────────────
📚 ISO45001完全実務ガイド

📍現在地:要求事項編(16/28)

✓ 第27回 6.1.3 法的要求事項及びその他の要求事項の決定

● 第28回 6.1.4 取組みの計画策定 ← 今回

○ 第29回 6.2.1 労働安全衛生目標
────────────────────────────

これまで箇条6.1では、職場や組織が対応すべきリスク及び機会について考えてきました。

具体的には、次の内容です。

  • 労働安全衛生リスク

  • 労働安全衛生マネジメントシステムに関するその他のリスク

  • 労働安全衛生の機会

  • 労働安全衛生マネジメントシステムに関するその他の機会

  • 法的要求事項及びその他の要求事項

  • 起こる可能性がある緊急事態

ここまでで、組織が対応すべきことが見えてきました。

しかし、見つけただけでは職場は変わりません。

例えば、リスクアセスメントで「騒音が大きい」と評価しても、その結果を表に残しただけでは、作業者が受ける騒音は小さくなりません。

次に必要なのは、

「この騒音リスクを、会社のどの仕組みで管理するのか」

を決めることです。

労働安全衛生目標にするのか。

設備改善計画に入れるのか。

作業手順を変更するのか。

教育を行うのか。

作業環境を測定して確認するのか。

このように、明らかになったリスク、機会、法令などを、マネジメントシステムの中へ振り分けるのが、6.1.4「取組みの計画策定」です。

ISO 45001は、労働安全衛生を安全衛生部門だけの独立した活動として扱うのではなく、組織の業務やプロセスへ組み込む考え方を採用しています。(ISO)


この記事で分かること

この記事では、次のことが分かります。

  • 6.1.4「取組みの計画策定」の役割

  • 6.1で明らかにした事項をどこへ振り分けるのか

  • すべてを労働安全衛生目標にする必要がない理由

  • 箇条7、8、9とのつながり

  • 計画した取組みを日常業務へ組み込む方法

  • 取組みを計画するときに考慮する事項

  • 実施後の有効性を確認する方法


この記事の結論

6.1.4は、6.1で明らかにしたリスク、機会、法令、緊急事態への対応を、組織のどの仕組みで管理するか決める箇条です。

分かりやすくいえば、取組みの交通整理です。

組織は、明らかになった事項について、次のことを計画します。

  1. どのような取組みを行うか

  2. どの業務や仕組みに組み込むか

  3. どのように実施するか

  4. 有効だったかをどのように確認するか

重要なのは、すべてのリスク、機会、法的要求事項を、6.2の労働安全衛生目標にする必要はないという点です。

あるものは労働安全衛生目標として改善します。

別のものは、教育、コミュニケーション、作業手順、設備管理、緊急対応、測定などで管理します。

つまり、次の流れです。

6.1で対応すべき事項を明らかにする

6.1.4で管理方法を振り分ける

箇条6.2、7、8、9などで実施・確認する




6.1.4「取組みの計画策定」とは何か

6.1.4では、主に次の三つに対する取組みを計画します。

1.リスク及び機会への取組み

6.1.2で特定・評価したリスク及び機会に対して、どのように対応するかを決めます。

例えば、次のような内容です。

  • 機械へのはさまれを防止する

  • 化学物質へのばく露を減らす

  • 騒音による健康への影響を防ぐ

  • 作業負荷を減らす

  • 安全性の高い設備を導入する

  • 働く人の意見を集める仕組みを改善する

リスクに対する取組みだけではありません。

安全衛生を改善できる可能性である「機会」についても、どのように実現するかを計画します。

 


2.法的要求事項及びその他の要求事項への取組み

6.1.3では、自社にどのような法令やその他の要求事項が適用されるかを決定しました。

しかし、法令一覧へ書くだけでは対応したことになりません。

例えば、次のような取組みへつなげます。

  • 必要な資格者や作業主任者を配置する

  • 法令に基づく点検を行う

  • 必要な教育を行う

  • 作業環境測定を計画する

  • 健康診断を実施する

  • 必要な届出を行う

  • 記録を作成し、保管する

  • 社内の作業手順を変更する

  • 法改正に合わせて管理方法を見直す

実際に必要な対応は、事業内容、設備、化学物質、作業条件などによって異なります。

最新の法令、行政情報、社内ルールを確認したうえで決定する必要があります。

 


3.緊急事態への準備及び対応

火災、爆発、化学物質の漏えい、自然災害など、起こる可能性がある緊急事態についても取組みを計画します。

例えば、次の内容です。

  • 緊急時の連絡方法を決める

  • 避難経路を決める

  • 設備の緊急停止方法を決める

  • 漏えい時の処理用品を準備する

  • 救急対応の担当者を決める

  • 緊急対応手順を作成する

  • 教育や訓練を行う

  • 訓練結果を確認して手順を見直す

緊急事態への準備及び対応は、主に箇条8.2で具体的に実施します。

ISOも、ISO 45001の主要な仕組みとして、運用管理と緊急事態への準備、監視・測定、パフォーマンス評価などを挙げています。(ISO)

 


6.1.4は「取組みの交通整理」である

6.1で明らかになった事項を、すべて同じ方法で管理する必要はありません。

取組みの内容に応じて、マネジメントシステムの適切な場所へ振り分けます。

実務上は、次のように整理できます。

振り分け先 管理する内容の例
箇条6.2 重点的に改善する労働安全衛生目標
箇条7 資源、力量、教育、認識、コミュニケーション、文書
箇条8 作業手順、設備対策、変更管理、調達、請負者、緊急対応
箇条9 監視、測定、分析、法令遵守の評価、内部監査、見直し
箇条10 不適合の是正、再発防止、継続的改善
その他の業務 予算、購買、設備投資、人事、保全、生産計画など

ただし、規格本文に「箇条7、8、9へ振り分けなさい」と一覧で書かれているわけではありません。

6.1.4は、計画した取組みを労働安全衛生マネジメントシステムのプロセスや、その他の事業プロセスへ組み込み、実施することを求めています。

その要求を実務へ置き換えると、箇条6.2、7、8、9などの仕組みへ振り分ける形になります。

ISO 45001は、力量、運用管理、パフォーマンス評価、継続的改善などを相互につながった仕組みとして管理する規格です。(ISO)

 


すべてを労働安全衛生目標にする必要はない

ここは、6.1.4を理解するうえで特に重要です。

6.1で明らかになったすべての事項を、6.2の労働安全衛生目標にする必要はありません。

例えば、フォークリフトのバックブザーが故障している場合を考えてみます。

これは、

「今年度中にバックブザーを修理する」

という目標にして、年度末まで待つような問題ではありません。

使用を一時停止する、修理する、代替車両を使用するなど、必要な対応を速やかに行うべき問題です。

一方で、次のような内容は、組織として計画的に進める必要があります。

  • フォークリフトと歩行者の通路を分離する
  • 工場内の交差箇所を段階的に減らす
  • 歩行者検知装置を導入する
  • フォークリフトの走行ルールを全事業所で統一する
  • 接触のおそれがある作業を自動化する

このような取組みは、複数の部門が関係し、設備工事や予算も必要になることがあります。

そのため、労働安全衛生目標として、期限や責任者を決めて管理することが考えられます。

労働安全衛生目標として管理するもの

  • 工場内の歩車分離率を高める
  • フォークリフトと歩行者が交差する箇所を削減する
  • 接触防止装置を段階的に導入する
  • フォークリフト作業のヒヤリハットを減らす
  • 荷役作業の自動化を進める

日常の仕組みで管理するもの

  • 故障した警報装置を修理する
  • 始業前点検を実施する
  • 制限速度を守る
  • 運転資格を確認する
  • 作業計画に沿って運行する
  • 決められた走行経路を守る
  • 見通しの悪い場所で誘導者を配置する

目標にしなかったから、何もしなくてよいわけではありません。

どの仕組みで、誰が、どのように管理するのかを決めることが重要です。

 


箇条7で管理する取組み

明らかになった課題の中には、人の知識や情報共有によって管理するものがあります。

例えば、次のような内容です。

力量と教育

  • 作業者に必要な技能を身につけてもらう

  • 資格者を育成する

  • 緊急時に対応できる人を教育する

  • 新しい設備の操作方法を教育する

認識

  • 作業にどのような危険があるか理解してもらう

  • ルールを守らなかった場合の影響を伝える

  • 自分の仕事が安全衛生にどう関係するか理解してもらう

コミュニケーション

  • 法改正の内容を関係部署へ伝える

  • リスクアセスメントの結果を作業者へ伝える

  • 協力会社へ構内ルールを伝える

  • 作業者から危険情報を受け取る

文書化した情報

  • 作業手順書を作る

  • 点検表を作る

  • 緊急対応手順を作る

  • 教育や測定の記録を残す

ただし、教育や手順書だけで、設備上の危険をすべて管理できるわけではありません。

まず危険源をなくせないか、設備で防げないかを検討する必要があります。

 


箇条8で管理する取組み

実際の作業や設備を管理する取組みは、主に箇条8へつながります。

例えば、次のような内容です。

  • 作業手順を決める

  • 設備へ安全装置を設置する

  • 点検方法を決める

  • 化学物質の購入方法を管理する

  • 協力会社へ安全上の条件を伝える

  • 外部委託した作業を管理する

  • 設備や工程を変更する前にリスクを確認する

  • 緊急事態への準備を行う

ここでは、リスクアセスメントの結果を、現場で実際に行う仕事へ反映します。

「対策を検討した」という会議記録だけでは不十分です。

作業方法、設備、点検、購買、保全などへ組み込まれて、初めて継続的に運用できます。

 


箇条9で管理する取組み

取組みの中には、測定や監視によって状態を確認するものもあります。

例えば、次のような内容です。

  • 作業環境測定を行う

  • 個人ばく露測定を行う

  • 騒音を測定する

  • 健康診断の結果を確認する

  • ストレスチェックの集団分析を確認する

  • 災害やヒヤリハットの発生状況を分析する

  • 法令遵守の状況を評価する

  • 内部監査で仕組みの運用状況を確認する

  • マネジメントレビューで経営者が確認する

ただし、測定するだけでは対策にならない場合があります。

測定結果が悪かった場合に、

「誰が、いつまでに、何を改善するか」

まで決めることが必要です。


取組みを計画するときに考慮すること


6.1.4では、取組みを計画するときに、いくつかの事項を考慮します。

主なものは、次のとおりです。

  • 管理策の優先順位

  • 労働安全衛生マネジメントシステムから得られた情報

  • 模範事例や良好事例

  • 利用できる技術

  • 費用上の条件

  • 運用上の条件

  • 事業上の条件


模範事例や良好事例

自社だけで対策を考えるのではなく、他社や業界で行われている良い取組みも参考にします。

例えば、同じ種類の機械を使用している他社で、より安全性の高い設備対策が実施されている場合があります。

そのような事例を調べ、

「自社でも導入できないか」

と考えることが重要です。

ただし、他社で有効だった対策が、そのまま自社でも有効とは限りません。

設備、作業方法、人員、作業環境などを確認したうえで判断します。

 


技術上の選択肢

取組みを計画するときは、利用できる技術についても検討します。

例えば、工場内でフォークリフトと歩行者が接触するおそれがある場合を考えてみます。

最初から、

「運転者と歩行者に注意させる」

という対策だけで終わらせてはいけません。

次のような技術的な対策を検討します。

  • フォークリフトと歩行者の通路を物理的に分離する
  • 柵やガードレールを設置する
  • フォークリフト専用通路を設ける
  • 歩行者専用の横断場所を設ける
  • 交差部分へミラーや信号を設置する
  • 歩行者を検知する装置を導入する
  • 接近警報装置を導入する
  • カメラや後方確認装置を設置する
  • 自動的に速度を制限する装置を使用する
  • フォークリフトが不要となる搬送設備へ変更する
  • 無人搬送車などへの置換えを検討する

すぐに設備対策を実施できない場合もあります。

例えば、通路を分離するためには、工場の配置変更や大規模な工事が必要になるかもしれません。

その場合でも、

「今年度は予算がないので、来年度まで注意して運転する」

だけでは十分とは限りません。

最終的な設備対策を実施するまでの間、次のような暫定対策を行います。

  • フォークリフトと歩行者が同じ時間帯に通行しないようにする
  • 一方通行にする
  • 走行速度を下げる
  • 見通しの悪い場所に誘導者を配置する
  • 一時停止場所を明確にする
  • 通路への立入りを制限する
  • 警報装置や回転灯を追加する
  • 作業者へ一時的なルールを周知する
  • 管理者が運行状況を確認する

暫定対策を実施した場合も、それだけで終了してはいけません。

最終対策の責任者、期限、必要な予算、進捗確認の時期を明確にする必要があります。


費用上・運用上・事業上の条件

利用できる技術についても検討します。
ここでは、フォークリフトと歩行者の接触リスクを低減するための技術的選択肢を考えます。

次のような技術を調べます。

  • 危険源の除去・代替(レイアウト・搬送方式の見直し)

    • 混合交通をやめ、人車分離レイアウトへ恒久的に変更する
    • 交差ポイントをなくす動線再設計(一方通行、ループ化、分岐の削減)
    • フォークリフトによる搬送を、コンベヤ、パイプライン、専用台車、AMR/AGVなどへ代替する(適用可能な範囲で)
  • 工学的対策(設備・機器によるリスク低減)

    • 物理バリア・セーフティフェンス・ゲートで通路を恒常分離する
    • 出入口をアクセス制御(カード/センサー連動の自動ドア)し、歩行者と車両の同時進入を防止する
    • 交差点の見通し確保(カーブミラー、監視カメラ、表示モニタ、照明強化)
    • 交差部の進入検知センサーと警報(光・音・床面LED)を連動させる
    • フォークリフト側の安全装備
      • 青色スポットライト、回転灯、バックブザー
      • 360度カメラ、後方監視カメラ、近接センサー、衝突回避支援装置
      • 速度リミッター、ジオフェンシングによる区域ごとの自動速度制限
      • 荷役時のインターロック(高揚程での速度制限等)、オペレータプレゼンススイッチ、シートベルトインターロック
    • 路面・表示の改善(高耐久マーキング、視認性の高い床表示、視線誘導)
  • 管理的対策を支えるデジタル技術

    • テレマティクスで速度・急操作・稼働時間を常時記録し、逸脱時に警報・是正につなげる
    • 入構・入門管理システムで教育受講や許可のない者の入場を制限する
    • ウェアラブルタグやビーコンで歩行者と車両の近接を検知・アラートする(導入可否は現場適合性を確認)
    • KPIダッシュボードでヒヤリハット、違反、交差ポイント削減などの状況を可視化する
  • 代替搬送・自動化の検討

    • 定型的な搬送はAMR/AGVへ切替え、人が立ち入らないゾーンを設計する
    • 荷受け・保管レイアウトを見直し、長距離走行や狭隘部走行の必要性を減らす

現時点で適切な技術的対策(例:恒久的な人車分離工事、センサー連動システム、衝突回避装置)がすぐに導入できない場合もあります。
その場合でも、

「技術がないから注意喚起や高視認ベストだけで終わり」

と簡単に決めるべきではありません。

当面の対策として、次のような暫定措置を実施しながら、技術の調査や設備改善を継続します。

  • 時間分離(荷役ピーク時の歩行者立入を禁止/出退勤動線と荷役時間の分離)
  • 一時的な通行止め・誘導員(スポッター)配置・速度制限の強化
  • 仮設バリア・コーン・チェーンで交差部を縮小・限定
  • 死角部の臨時照明・ミラー追加、標識の大型化と再配置
  • 構内ルールの徹底教育(協力会社・来訪者を含む)と巡視強化
  • 保全の短サイクル化(警報・灯火・ブザー・ブレーキ等の機能点検)

必要であれば、次のように「調査・決定」自体を目標として管理できます。

  • 「人車分離・近接検知・ジオフェンシングなどの技術を調査する」
  • 「次年度までに導入可否と仕様を決定し、予算・工程を確定する」

 


対策は管理策の優先順位で考える

リスクへの取組みを計画するときは、人の注意だけに頼らないことが重要です。

基本的には、次の順番で検討します。

  1. 危険源をなくす

  2. 危険性の低いものへ変更する

  3. 設備や作業の仕組みで危険を減らす

  4. 手順、教育、表示などで管理する

  5. 個人用保護具を使用する

例えば、有害な洗浄剤を使用している場合は、最初から防毒マスクだけを対策にするのではありません。

次の順番で考えます。

  • 洗浄作業をなくせないか

  • 有害性の低い洗浄剤へ変更できないか

  • 洗浄工程を密閉できないか

  • 自動化できないか

  • 局所排気装置を設置できないか

  • 作業方法や作業時間を変更できないか

  • そのうえで、必要な保護具を使用する

ISO 45001では、危険源の除去とリスクの低減を管理策の優先順位に沿って進めることが重視されています。(ISO)

 


フォークリフト作業を6.1.4で振り分ける具体例

工場内で、フォークリフトと歩行者が同じ通路を使用しているとします。

リスク評価を行った結果、次の問題が明らかになりました。

  • フォークリフトと歩行者が接触するおそれがある
  • 荷物によって運転者の前方が見えにくくなる
  • 見通しの悪い交差箇所がある
  • 走行経路が明確になっていない
  • 歩行者がフォークリフト通路へ入ることがある
  • 制限速度が守られているか確認できていない
  • 運転者ごとに走行方法が異なる
  • 荷崩れや車両の転倒につながる可能性がある

このような場合、一つの対策だけで管理するのではありません。

6.1.4では、複数の仕組みへ振り分けて管理します。

管理する場所 取組みの例
6.2 労働安全衛生目標 2年間で主要通路の歩車分離を完了する
7.2 力量 運転者に必要な資格、技能、社内教育を確認する
7.3 認識 接触、荷崩れ、転倒などの危険を理解してもらう
7.4 コミュニケーション 走行ルールや危険箇所を作業者・協力会社へ伝える
7.5 文書化した情報 作業計画、走行経路図、点検表、運転ルールを管理する
8.1 運用管理 走行経路、制限速度、一時停止場所、誘導方法を決める
8.1.2 管理策 歩車分離、柵、ミラー、警報装置、検知装置を導入する
8.1.3 変更管理 レイアウトや物流方法を変更する前にリスクを確認する
8.1.4 調達 新しいフォークリフトや安全装置の購入条件を決める
9.1 パフォーマンス評価 速度、通路の使用状況、ヒヤリハット、点検結果を確認する
10 改善 接触事故やルール違反があった場合に原因を調べて改善する
事業プロセス 設備投資、工事計画、物流計画、予算へ組み込む


このように、一つのフォークリフト作業でも、目標、教育、運用、測定、設備投資など、複数の仕組みが関係します。

重要なのは、

「フォークリフトのリスクは安全担当者が管理するもの」

として終わらせないことです。

物流、生産、設備、保全、購買、教育などの業務へ、必要な取組みを組み込む必要があります。

 


フォークリフトのリスクを管理策の優先順位で考える

フォークリフトと歩行者の接触リスクについても、管理策の優先順位に沿って検討します。

1.危険源をなくす

  • フォークリフトを使用しない搬送方法へ変更する
  • 搬送工程を自動化する
  • 歩行者が入らない区域内だけでフォークリフトを使用する

2.危険性の低い方法へ変更する

  • より小型で視認性の高い車両へ変更する
  • 作業内容に応じて、より安全な搬送設備へ変更する
  • フォークリフトと歩行者が同時に作業しない方法へ変更する

3.設備や作業の仕組みで危険を減らす

  • 通路を柵で分離する
  • 一方通行にする
  • 交差部分に信号を設置する
  • 歩行者検知装置を導入する
  • 自動速度制御装置を導入する
  • カメラやミラーを設置する
  • 荷物の高さや積載方法を見直す

4.手順、教育、表示で管理する

  • 作業計画を作成する
  • 走行経路を決める
  • 制限速度を決める
  • 一時停止ルールを決める
  • 運転者と歩行者を教育する
  • 床面表示や標識を設置する
  • 見通しの悪い場所で誘導する

5.個人用保護具を使用する

  • 歩行者が高視認性の衣服を着用する
  • 必要に応じて保護帽や安全靴を使用する

高視認性の衣服を着用することも有効な場合があります。

しかし、それだけでフォークリフトとの接触を防げるわけではありません。

まずは、歩行者とフォークリフトが接近しない仕組みを優先して検討します。

 


実施した取組みの有効性を確認する

取組みは、実施しただけで終わりではありません。

例えば、フォークリフトの走行通路へ、歩行者との区分を示す線を引いたとします。

床へ線を引いたことは「実施」です。

しかし、次のような状態であれば、その対策が有効とは限りません。

  • 歩行者がフォークリフト通路を横切っている
  • 荷物が通路にはみ出している
  • 床面表示が消えている
  • フォークリフトが歩行者通路へ進入している
  • 交差部分で一時停止が行われていない
  • 制限速度が守られていない
  • 運転者から歩行者が見えにくい
  • 通路の幅が不足している
  • 歩行者が通れる場所がほかにない

この場合、床へ線を引くだけではなく、柵による分離、通路配置の変更、交差箇所の削減などが必要かもしれません。

取組みの有効性は、次のような情報で確認します。

  • フォークリフトと歩行者の通行状況
  • 走行速度
  • 一時停止の実施状況
  • 通路への荷物のはみ出し
  • 始業前点検の実施状況
  • ヒヤリハットの発生状況
  • 接触事故や物損事故の発生状況
  • 運転者と歩行者からの意見
  • 管理者による現場確認
  • 内部監査の結果
  • 安全パトロールの結果
  • 設備対策後のリスク評価

例えば、歩車分離を実施した後にヒヤリハットが減っていても、別の場所に新しい交差箇所ができていないか確認する必要があります。

一つの場所を改善した結果、危険が別の場所へ移っていないかを見ることも重要です。

 


取組みを計画する実務7ステップ

ステップ1.対応が必要な事項を集める

  • 接触や荷崩れのリスク
  • 適用される法的要求事項
  • 始業前点検の結果
  • ヒヤリハット
  • 作業者からの意見
  • フォークリフトの走行状況
  • 工場レイアウトの変更予定

ステップ2.優先順位を決める

  • 人と車両が頻繁に交差する場所
  • 見通しの悪い場所
  • 重量物を運ぶ場所
  • 多くの人が通行する場所
  • 過去に接触やヒヤリハットがあった場所

などを優先します。

ステップ3.必要な取組みを決める

  • 歩車分離
  • 走行経路の変更
  • 安全装置の導入
  • 速度管理
  • 誘導者の配置
  • 教育
  • 点検
  • 作業計画の見直し

を検討します。

ステップ4.管理する場所を振り分ける

  • 重点改善は労働安全衛生目標
  • 運転者教育は箇条7
  • 走行ルールや設備対策は箇条8
  • 速度やヒヤリハットの確認は箇条9
  • 設備工事や車両購入は事業プロセス

へ振り分けます。

ステップ5.実行条件を明確にする

  • 責任者
  • 期限
  • 必要な予算
  • 工事期間
  • 作業停止の必要性
  • 暫定的な走行ルール
  • 有効性の確認方法

を決めます。

ステップ6.取組みを実施する

設備工事、通路変更、教育、標識設置、作業計画の改訂などを行います。

ステップ7.有効性を確認して見直す

実施後に現場を確認し、接触のおそれが本当に減ったかを評価します。

十分でなければ、追加対策を行います。




実務確認チェックリスト

  • □ リスク及び機会への取組みを決めている

  • □ 法的要求事項及びその他の要求事項への対応を決めている

  • □ 緊急事態への準備及び対応を計画している

  • □ すべてを労働安全衛生目標にしていない

  • □ 目標にしない事項にも管理方法がある

  • □ 箇条7、8、9などとのつながりを整理している

  • □ 必要に応じて通常の事業プロセスへ組み込んでいる

  • □ 管理策の優先順位を考慮している

  • □ 模範事例や利用できる技術を調べている

  • □ 費用、運用、事業上の条件を考慮している

  • □ 予算不足だけを理由に重大な対策を放置していない

  • □ 最終対策までの暫定対策を決めている

  • □ 責任者と期限を明確にしている

  • □ 実施後の有効性を確認している

  • □ 有効でない場合に対策を見直している


よくある誤解

誤解1.すべてを労働安全衛生目標にする必要がある

その必要はありません。

重点的に改善するものは目標にしますが、作業手順、教育、点検、緊急対応などで管理するものもあります。

誤解2.目標にしなければ対応しなくてよい

目標にしなかった事項にも、必ず管理方法が必要です。

どの仕組みで管理するかを決めることが6.1.4の重要な役割です。

誤解3.リスク評価表へ対策を書けば完了する

対策案を書くだけでは不十分です。

担当者、期限、実施方法を決め、実際の業務へ組み込み、有効性を確認します。

誤解4.教育と保護具だけで管理すればよい

まず、危険源をなくせないか、設備で危険を減らせないかを検討します。

教育や保護具だけに頼らないことが重要です。

誤解5.予算がなければ来年度まで何もしなくてよい

重大な危険や法令上必要な対応を、予算だけを理由に放置してはいけません。

最終対策までの暫定措置や作業制限も含めて、安全を確保する必要があります。


FAQ

Q1.6.1.4専用の計画書は必要ですか?

規格は、6.1.4専用という名前の様式を指定していません。

リスクアセスメント表、年間計画、設備改善計画、教育計画などで管理できます。

ただし、必要な取組み、実施状況、有効性を説明できる状態が必要です。

Q2.一つのリスクを複数の箇条で管理してもよいですか?

はい。

例えば、フォークリフトと歩行者の接触リスクは、歩車分離や接触防止装置などの設備対策だけで管理するものではありません。

運転者の力量確認、作業者への教育、走行ルールの周知、作業計画、制限速度、始業前点検、ヒヤリハットの分析など、複数の仕組みを組み合わせて管理することがあります。

Q3.すべての法的要求事項を目標にする必要がありますか?

ありません。

法令に基づく定期点検や教育は、通常の管理業務として実施できます。

ただし、法令への適合を改善する重点活動を目標にする場合はあります。

Q4.技術的にすぐ改善できない場合はどうしますか?

現在できる暫定対策を行いながら、技術の調査や設備改善を継続します。

重大な危険が管理できない場合は、作業の停止や制限も検討します。

Q5.費用を考慮することは、安全より予算を優先することですか?

違います。

費用は、実施時期や方法を計画するための条件です。

法令上必要な対応や重大な危険への対策を行わない理由にはできません。

Q6.有効性はどのように評価しますか?

測定、点検、現場確認、作業者の意見、災害発生状況などから、予定した結果が得られたかを確認します。

確認方法は、取組みを計画する段階で決めておくことが重要です。


まとめ

ISO 45001の6.1.4は、6.1で明らかにしたリスク、機会、法令、緊急事態を、組織のどの仕組みで管理するか決める箇条です。

重要なポイントは、次のとおりです。

  • 6.1.4は取組みの交通整理である

  • すべてを労働安全衛生目標にする必要はない

  • 目標にしない事項にも管理方法が必要である

  • 箇条7では教育やコミュニケーションなどを管理する

  • 箇条8では作業、設備、調達、緊急対応などを管理する

  • 箇条9では測定やパフォーマンス評価を行う

  • 通常の予算、購買、設備投資などへも組み込む

  • 管理策の優先順位を考慮する

  • 実施した取組みの有効性を確認する

リスクアセスメントや法令一覧は、作ることが目的ではありません。

そこで明らかになった内容を、組織の仕事の仕組みへ組み込み、実施し、結果を確認することが重要です。

次回は、6.2.1「労働安全衛生目標」について解説します。

6.1.4で振り分けた取組みのうち、組織として重点的に改善するものを、どのように目標として設定するのかを整理します。


注意書き

この記事は、ISO 45001及び労働安全衛生に関する一般的な情報を提供するものです。

個別の現場における最終判断を代替するものではありません。

実際の対応は、使用している規格票、最新の法令、行政情報、社内ルール、設備、化学物質、作業条件などを確認し、必要に応じて経営者、管理者、労働安全衛生の専門家などの判断に基づいて行ってください。


要約

ISO 45001の6.1.4「取組みの計画策定」は、6.1で明らかにしたリスク及び機会、法的要求事項及びその他の要求事項、緊急事態への対応を、労働安全衛生マネジメントシステムや通常の事業プロセスへ組み込む方法を計画する要求事項です。

すべての事項を6.2の労働安全衛生目標にする必要はありません。重点的な改善は目標として管理し、その他の事項は、力量、教育、コミュニケーション、作業手順、設備管理、緊急対応、測定、監査などの仕組みで管理します。

取組みを計画するときは、管理策の優先順位、模範事例、利用可能な技術、費用上・運用上・事業上の条件を考慮します。ただし、費用や技術上の制約は、重大な危険や法令上必要な対応を放置する理由にはなりません。

組織は、取組みを実施するだけでなく、測定、点検、現場確認、働く人の意見などによって有効性を確認し、必要に応じて見直す必要があります。

今回の修正では、前回の記事よりも「6.1から箇条6.2・7・8・9へ振り分ける流れ」と「目標にしない事項の管理方法」が明確になっています。

ISO45001 6.1.3とは?法的要求事項及びその他の要求事項の決定を実務で解説【第27回】

────────────────────────────
📚 ISO45001完全実務ガイド

📍現在地:要求事項編(15/28)

✓ 第26回 6.1.2.3 労働安全衛生機会及びその他の機会の評価

● 第27回 6.1.3 法的要求事項及びその他の要求事項の決定 ← 今回

○ 第28回 6.1.4 取組みの計画策定
────────────────────────────

労働災害が起きた後に、

「そのような法律があるとは知りませんでした」

と説明しても、それだけで会社の責任がなくなるわけではありません。

会社には、自社に関係する安全衛生法令を調べ、具体的に何を守らなければならないかを把握する責任があります。

しかし、労働安全衛生に関係する法律や規則は数が多く、内容も細かく定められています。

そのため、次のような疑問を持つ方も多いでしょう。

「どの法令を調べればよいのか」

「法律の名前を一覧表にすればよいのか」

「どの条文まで確認すればよいのか」

「調べた内容を誰に伝えればよいのか」

これらを明確にするのが、ISO45001の6.1.3「法的要求事項及びその他の要求事項の決定」です。

ISO45001は、危険源の特定やリスクアセスメントだけでなく、労働安全衛生に関する法令遵守を重要な構成要素としています。


この記事で分かること

この記事では、次のことが分かります。

  • 6.1.3がコンプライアンスに必要な理由

  • 5.2や4.2など、ほかの箇条とのつながり

  • 法的要求事項とその他の要求事項の違い

  • 6.1.3で会社が決める3つのこと

  • 法令をどの深さまで特定すればよいのか

  • 法令一覧表を作るだけでは不十分な理由

  • フォークリフト作業を使った具体例

  • 法令情報を現場へ伝える方法

  • 6.1.3と9.1.2「順守評価」の違い

  • 法令管理を行う実務7ステップ

この記事の結論

ISO45001の6.1.3で求められているのは、法律の名前を並べることではありません。

会社は、次のことを明確にする必要があります。

  1. 自社に関係する最新の法的要求事項及びその他の要求事項を特定し、情報を入手できるようにする

  2. その要求事項が自社へどのように適用されるか、誰に何を伝える必要があるかを決める

  3. 要求事項を安全衛生の仕組み、手順、設備、教育、点検などへ確実に反映する

つまり、6.1.3の目的は、

「どの法律があるかを知ること」ではなく、「自社が具体的に何をしなければならないかを決めること」

です。


6.1.3は5.2で約束した法令遵守を具体化する箇条

ISO45001の5.2では、トップマネジメントが労働安全衛生方針を定めます。

その方針には、法的要求事項及びその他の要求事項を満たすという約束を含めます。

しかし、ここで一つ疑問が生まれます。

「守ると約束したものの、具体的に何を守ればよいのか」

この疑問に答えるのが6.1.3です。

関係を簡単に整理すると、次のようになります。

5.2 労働安全衛生方針

法的要求事項及びその他の要求事項を満たすと約束する。

6.1.3 法的要求事項及びその他の要求事項の決定

具体的に何を守る必要があるかを決める。

6.1.4・8.1など

守るための取組みや手順を計画し、実行する。

9.1.2 順守評価

実際に守れているかを評価する。

5.2で宣言しただけでは、法令遵守は実現しません。

6.1.3で具体的な要求内容を決め、実際の仕事へつなげる必要があります。


6.1.3は4.2「利害関係者のニーズ及び期待」ともつながる

6.1.3は、4.2「働く人及びその他の利害関係者のニーズ及び期待の理解」とも関係しています。

4.2では、自社の安全衛生に関係する人や組織が、どのような要求を持っているかを把握します。

例えば、次のような利害関係者が考えられます。

  • 労働基準監督署

  • 消防署などの行政機関

  • 働く人

  • 労働組合

  • 顧客

  • 元請会社

  • 親会社

  • グループ本社

  • 地域住民

  • 保険会社

4.2では、これらの関係者からどのような要求があるかを大きく捉えます。

その中から、会社が守る必要がある法的要求事項及びその他の要求事項を具体的に決定するのが6.1.3です。

したがって、4.2と6.1.3は別々の活動ではありません。

4.2で関係する要求を把握し、6.1.3で自社が守る内容まで具体化する

という関係にあります。

 


6.1.3で会社が行う3つのこと

6.1.3の要求内容は、実務上、次の3つに整理できます。

1. 要求事項を決定し、情報を入手できるようにする

会社は、自社の危険源、労働安全衛生リスク、労働安全衛生マネジメントシステムに関係する要求事項を調べます。

さらに、必要なときに最新の内容を確認できるようにします。

一度法令一覧表を作って終わりではありません。

法律や規則は改正されます。

例えば、2025年5月14日に公布された労働安全衛生法及び作業環境測定法の改正は、2026年以降、項目ごとに段階的に施行されています。公布日、施行日、経過措置を分けて確認しなければ、対応時期を誤る可能性があります。

現行法令の本文を調べるときは、e-Gov法令検索が重要な確認先になります。e-Govでは、法律、政令、省令などの現行法令を検索できます。

ただし、法令本文だけで実務上の対応が判断できない場合もあります。

その場合は、次の情報も確認します。

  • 厚生労働省の改正情報

  • 都道府県労働局の案内

  • 関係する告示

  • 行政通達

  • 自治体の条例

  • 行政機関からの通知

  • 正式な契約書や協定書

  • 社内で承認された安全基準

2. 自社へどのように適用されるか決める

法令を見つけただけでは不十分です。

その法令が、自社のどの事業場、設備、物質、作業、人に適用されるのかを判断します。

例えば、化学物質に関する法令では、次の条件によって必要な対応が変わる場合があります。

  • 使用する物質

  • 含有率

  • 取扱量

  • 作業場所

  • 作業方法

  • 作業時間

  • 換気設備

  • 対象となる働く人

  • 適用除外

  • 経過措置

会社は、

「有機溶剤中毒予防規則が関係する」

という段階で止めてはいけません。

次のような具体的な内容まで確認します。

  • どの作業が対象なのか

  • どのような設備が必要なのか

  • 誰を選任する必要があるのか

  • どの測定や健康診断が必要なのか

  • どの内容を掲示するのか

  • どの記録を残すのか

  • いつまで保存するのか

適用条件は作業や設備によって異なるため、法令本文と最新の行政情報で個別に確認する必要があります。

3. マネジメントシステムへ確実に反映する

決定した要求事項は、単に一覧表へ記載するだけではいけません。

次のような安全衛生の仕組みへ反映します。

  • 作業手順

  • リスクアセスメント

  • 設備の設計

  • 機械や設備の点検

  • 法定検査

  • 安全衛生教育

  • 作業主任者などの選任

  • 作業環境測定

  • 健康診断

  • 購買条件

  • 協力会社管理

  • 緊急事態への対応

  • 記録の作成と保存

  • 順守評価

6.1.3にある「考慮に入れる」とは、一覧表に書いたことを意味するのではありません。

決定した要求事項を、マネジメントシステムの設計、実施、維持、改善へ実際に組み込むことが重要です。

 


法的要求事項とは何か

法的要求事項とは、会社が法律上守らなければならない安全衛生上の要求です。

日本国内の事業場では、例えば次の法令が関係する可能性があります。

  • 労働安全衛生法

  • 労働安全衛生法施行令

  • 労働安全衛生規則

  • 労働基準法

  • 有機溶剤中毒予防規則

  • 特定化学物質障害予防規則

  • 酸素欠乏症等防止規則

  • 粉じん障害防止規則

  • 石綿障害予防規則

  • 電離放射線障害防止規則

  • 消防法令

  • 高圧ガス保安法令

  • 健康増進法

  • 都道府県や市町村の条例

ただし、これらすべてが、すべての会社に適用されるわけではありません。

業種、建物、設備、化学物質、作業方法、従業員数などによって、適用される要求は変わります。

「自社には関係しそうだ」という判断だけでなく、具体的な適用条件を確認することが重要です。

 


その他の要求事項とは何か

その他の要求事項とは、法律そのものではなくても、会社が守る必要がある、または守ると決めた安全衛生上の要求です。

例えば、次のようなものがあります。

  • 労働協約に定めた安全衛生上の事項

  • 労使間で合意した安全衛生上のルール

  • 顧客との契約に含まれる安全基準

  • 元請会社の構内安全ルール

  • 親会社やグループ本社の安全基準

  • 会社が採用すると決めた業界基準

  • 保険契約に含まれる安全上の条件

  • 地域住民や行政機関との合意事項

  • 社外へ公表した安全衛生上の約束

ただし、世の中にあるすべてのガイドラインが、自動的にその他の要求事項になるわけではありません。

次の点を確認して判断します。

  • 契約上、守る必要があるか

  • 会社が正式に採用しているか

  • 労使で合意しているか

  • 社外へ守ると約束しているか

  • 認証や取引を継続する条件になっているか

36協定はどちらに分類するのか

36協定は、労働基準法に基づいて時間外労働や休日労働を行わせるための法定手続です。

そのため、36協定そのものを単純に「その他の要求事項」と分類するのは適切ではありません。

法律に基づく上限や届出義務は、法的要求事項として扱います。

一方、労使が法律の最低基準を超えて独自に合意した安全衛生上の内容は、その他の要求事項に該当する可能性があります。

労働基準監督署の是正勧告や指導はどちらか

労働基準監督署は、調査の結果、法令違反が認められた場合に是正勧告を行うことがあります。是正勧告や指導を受けた会社は、指摘された内容と根拠法令を確認し、是正内容を管理する必要があります。

ただし、すべての行政指導を一律に「その他の要求事項」と分類するのは適切ではありません。

次のように整理します。

  • 根拠となる法律上の義務:法的要求事項

  • 法令に基づく命令や許可条件:法的要求事項として管理

  • 是正勧告で指摘された法違反:根拠法令と是正内容を管理

  • 法的拘束力のない助言や指導:内容を確認し、必要に応じてその他の要求事項や改善事項として管理

文書の名称だけで判断せず、その根拠と内容を確認することが大切です。

 


法令をどこまで細かく特定すればよいのか

法令管理で最も多い悩みの一つが、

「どの条文まで特定すればよいのか」

という問題です。

すべての法令を一条ずつ一覧表へ転記する必要はありません。

一方で、

「労働安全衛生法が適用される」

と法令名だけを書くのも不十分です。

判断基準は、その情報を見れば、現場で何をしなければならないか分かるかです。

少なくとも、次の内容を説明できる深さまで特定します。

  • 誰が行うのか

  • 何を行うのか

  • どの作業や設備が対象なのか

  • いつ行うのか

  • どのくらいの頻度で行うのか

  • 何を記録するのか

  • 誰へ伝えるのか

  • どの手順書や点検表に反映するのか

法令名を知っているだけでは、コンプライアンスにはつながりません。

現場の行動へ置き換えられる深さまで特定する

ことが重要です。

 


フォークリフトの作業計画で考える6.1.3

ここでは、フォークリフトを使った作業を例に考えてみます。

フォークリフトを使用している会社が、法令一覧表に次のように書いていたとします。

法令名 適用
労働安全衛生法 該当
労働安全衛生規則 該当

これだけでは、現場で何をすればよいのか分かりません。

労働安全衛生規則第151条の3では、フォークリフトなどの車両系荷役運搬機械等を使って作業するとき、作業場所の広さや地形、機械の種類・能力、荷の種類・形状などに合った作業計画をあらかじめ定めることが求められています。

作業計画には、運行経路と作業方法を示し、その内容を関係する労働者へ周知する必要があります。

したがって、6.1.3では、例えば次のように具体化します。

法的要求事項

労働安全衛生規則第151条の3

適用対象

構内で行うフォークリフトによる荷の運搬・積卸し作業

会社が行うこと

  • 作業前に作業計画を作成する

  • 運行経路を定める

  • 作業方法を定める

  • 作業場所や荷の状態に合った内容にする

  • 関係する労働者へ周知する

  • 作業計画に基づいて作業する

担当者

物流部門の管理者及び作業指揮者

伝達する相手

  • フォークリフト運転者

  • 荷役作業者

  • 運行経路付近で働く人

  • 必要に応じて協力会社の作業者

関係する文書

  • フォークリフト作業計画

  • 構内運行経路図

  • 作業手順書

  • 作業前ミーティング記録

  • 教育記録

ここまで具体化されていれば、法令の要求を実際の管理へつなげられます。


「何を伝える必要があるか」まで決める

6.1.3では、要求事項が自社へどのように適用されるかだけでなく、何を伝達する必要があるかも決めます。

法令担当者だけが条文を知っていても、現場では守れません。

ただし、法令本文をそのまま全員へ配布すればよいわけでもありません。

立場に応じて、必要な内容を分かりやすく伝えます。

伝える相手 主な伝達内容
経営者 必要な予算、人員、設備投資、対応期限
工場長 事業場全体で必要となる管理
安全衛生担当者 届出、教育、選任、記録、順守評価
設備担当者 点検、検査、安全装置、設備改造
管理監督者 作業方法、現場確認、作業者への指示
作業者 実際に守る手順、禁止事項、保護具
購買担当者 機械、化学物質、保護具の購入条件
協力会社 構内ルール、作業条件、連絡方法

この内容は、後の7.4「コミュニケーション」へつながります。

6.1.3で「何を誰に伝えるか」を決め、7.4の仕組みを使って実際に伝達します。


法令一覧表を作るだけでは不十分

法令一覧表は重要な管理手段です。

しかし、ISO45001は「法令一覧表」という名前や様式そのものを要求しているわけではありません。

重要なのは、適用される要求事項が決定され、必要な人が利用でき、変更に応じて更新されていることです。

不十分な例

法令名 適用
労働安全衛生法
労働安全衛生規則
消防法

これでは、具体的な行動が分かりません。

実務につながる管理項目

法令一覧表には、必要に応じて次の項目を設けます。

  • 法令・要求事項の名称

  • 関係する条文

  • 対象事業場

  • 対象となる設備、物質、作業

  • 適用される理由

  • 非適用とした理由

  • 守るべき具体的な内容

  • 担当部門

  • 責任者

  • 伝達する相手

  • 関係する手順や記録

  • 公布日

  • 施行日

  • 経過措置

  • 対応期限

  • 最終確認日

  • 改正への対応状況

一覧表は、法律の名前を保存するための表ではありません。

会社が守るべき行動を管理するための表

として作成します。


6.1.3と9.1.2「順守評価」の違い

6.1.3と9.1.2は、よく混同されます。

6.1.3で行うこと

自社が何を守る必要があるかを決定します。

例えば、

  • 作業計画を作成する必要がある

  • 作業主任者を選任する必要がある

  • 定期自主検査を行う必要がある

  • 教育を実施する必要がある

  • 記録を保存する必要がある

という要求を特定します。

9.1.2で行うこと

決定した要求事項を実際に守れているか評価します。

例えば、

  • 作業計画は作成されているか

  • 関係する労働者へ周知したか

  • 必要な資格者を選任しているか

  • 点検を期限内に実施しているか

  • 必要な記録を保存しているか

を確認します。

箇条 確認すること
6.1.3 何を守る必要があるか
9.1.2 実際に守れているか

6.1.3で要求内容が具体化されていなければ、9.1.2で何を評価すればよいか分かりません。


法令管理を行う実務7ステップ


ステップ1:自社の活動を整理する

次の内容を洗い出します。

  • 作業

  • 設備

  • 機械

  • 化学物質

  • 建物

  • 働く人

  • 協力会社

  • 非定常作業

  • 緊急時の作業

ステップ2:関係する要求事項を調べる

e-Gov、厚生労働省、労働局、自治体、契約書、労働協約などを確認します。

ステップ3:自社への適用を判断する

対象、条件、適用除外、経過措置まで確認します。

ステップ4:守る行動まで具体化する

誰が、何を、いつ、どのように行うのかを決めます。

ステップ5:責任者と伝達先を決める

担当部門だけでなく、最終的に誰が管理するかを明確にします。

ステップ6:手順や設備管理へ反映する

作業手順、教育、点検、購買、健康管理などへ組み込みます。

ステップ7:改正情報を確認して更新する

公布日、施行日、経過措置、対応期限を確認し、対応完了まで管理します。


よくある誤解

誤解1:法律の名前を一覧にすればよい

法令名だけでは、現場で何をすればよいか分かりません。

行動へ置き換えられる深さまで特定します。

誤解2:労働安全衛生法だけを確認すればよい

消防法令、労働基準法、個別の特別規則、条例などが関係する場合があります。

自社の作業や危険源から調査範囲を決めます。

誤解3:その他の要求事項は法律ではないので守らなくてもよい

会社が契約や合意によって受け入れた要求は、会社が管理すべき要求事項になります。

誤解4:本社の一覧表を各工場でそのまま使える

使用する設備、物質、作業、建物、条例などは事業場ごとに異なります。

各事業場で適用判定が必要です。

誤解5:法令は年1回確認すればよい

法改正の内容によっては、設備改造、教育、予算確保などの準備が必要です。

定期確認に加え、重要な改正を途中でも把握できる仕組みが必要です。

誤解6:6.1.3で法令遵守を評価する

6.1.3では、何を守る必要があるかを決めます。

実際に守れているかの評価は、9.1.2で行います。


FAQ

Q1. すべての法令の全条文を法令一覧表へ記載する必要がありますか

必要ありません。

ただし、現場で何をすべきか分かる深さまで、関係する条文や要求内容を特定する必要があります。

Q2. 法令一覧表は必ず作成しなければなりませんか

「法令一覧表」という名称や様式が指定されているわけではありません。

ただし、適用される要求事項と判断結果を文書化し、最新の状態に維持する必要があります。実務では一覧表を使う方法が分かりやすいでしょう。

Q3. 行政のガイドラインはすべてその他の要求事項になりますか

すべてが自動的に該当するわけではありません。

法的な位置付け、自社との関係、会社が採用しているかなどを確認して判断します。

Q4. 労基署の是正勧告はその他の要求事項ですか

一律には分類できません。

指摘の根拠となる法令上の義務は法的要求事項です。是正勧告の内容、指導票、命令などの性質を確認し、是正内容を確実に管理します。

Q5. 法改正はどのくらいの頻度で確認すべきですか

ISO45001は一律の確認頻度を定めていません。

業種、危険性、法令改正の多さなどを考慮し、定期確認と随時確認を組み合わせます。

Q6. 法令管理は安全衛生担当者だけで行えばよいですか

安全衛生担当者が取りまとめることはできます。

ただし、設備、人事、購買、製造、健康管理など、要求事項に関係する部門の協力が必要です。

Q7. 適用されない法令も記録すべきですか

重要な法令については、非適用と判断した理由を残すと説明しやすくなります。

設備や作業が変更されたときの再確認にも役立ちます。


まとめ

ISO45001の6.1.3は、コンプライアンスを実現するために欠かせない箇条です。

5.2では、法的要求事項及びその他の要求事項を満たすことを方針として約束します。

6.1.3では、その約束を具体化し、

  • 何を守る必要があるか

  • 自社へどのように適用されるか

  • 誰に何を伝えるか

  • どの手順や設備管理へ反映するか

を決めます。

法令をどこまで特定するかについて、単純な条文数の答えはありません。

判断基準は、

その内容を見れば、現場で何をしなければならないか分かるか

です。

法律の名前を並べるだけで終わらせず、現場の行動、教育、設備、点検、記録へつなげてください。

次回は、6.1.1から6.1.3までで明らかにしたリスク、機会、法的要求事項などに対して、具体的な取組みをどのように計画するのか、6.1.4「取組みの計画策定」を解説します。


注意書き

この記事は、ISO45001及び安全衛生に関する一般的な情報提供を目的としています。

個別の会社、事業場、設備、化学物質、作業への法令適用を最終判断するものではありません。

実際の対応では、正規に管理しているISO45001またはJIS Q 45001の規格本文、最新の法令、行政情報、自治体の条例、契約、社内ルール、現場条件を確認してください。

法令の適用判断が難しい場合は、所轄の行政機関、法務担当者、労働安全コンサルタント、労働衛生コンサルタントなどへ確認する必要があります。


要約

ISO45001の6.1.3「法的要求事項及びその他の要求事項の決定」は、組織が労働安全衛生に関係する最新の法令、条例、契約上の安全基準、労働協約などを把握し、自社への適用方法と必要な伝達内容を決めるための要求事項である。

法令名を一覧にするだけではなく、対象となる事業場、設備、物質、作業、具体的な義務、担当者、伝達先、施行日、経過措置などを明確にし、作業手順、設備管理、教育、点検、健康管理へ反映する必要がある。

6.1.3では何を守る必要があるかを決定し、9.1.2では実際に守れているかを評価する。個別の適用判断は、最新の法令、行政情報、契約、社内ルール及び現場条件を確認して行う必要がある。

ISO45001 6.1.2.3「労働安全衛生機会及びその他の機会の評価」とは?実務での進め方を解説【第26回】

────────────────────────────
📚 ISO45001完全実務ガイド

📍現在地:要求事項編(14/28)

✓ 第25回 6.1.2.2 労働安全衛生リスク及びその他のリスクの評価

● 第26回 6.1.2.3 労働安全衛生機会及びその他の機会の評価 ← 今回

○ 第27回 6.1.3 法的要求事項及びその他の要求事項の決定
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第25回では、特定した危険源について、働く人がけがや健康障害を受ける可能性を評価する方法を説明しました。

リスクを評価した結果、組織が決めた基準で受け入れられると判断できれば、現在の管理策を継続する場合があります。

一方、受け入れられないと判断した場合は、そのまま放置できません。

追加の管理策を考え、リスクを下げる必要があります。

ここで、次のような疑問が出てきます。

「リスクを下げるための管理策が、ISO45001でいう機会なのか」

「リスクが受け入れられるなら、改善は必要ないのか」

「改善案は、すべて機会として扱うのか」

今回説明する6.1.2.3では、働く人の安全と健康をさらに良くする可能性と、安全衛生を管理する仕組みを良くする可能性を評価します。

ただし、リスクを受け入れられる状態にするために必要な管理策と、さらに良い状態を目指す機会は、同じ意味ではありません。


この記事で分かること

この記事では、次のことが分かります。

  • ISO45001における機会の意味

  • 労働安全衛生機会とその他の機会の違い

  • リスク評価と機会評価の違い

  • リスクが受け入れられる場合にも機会を考える理由

  • リスクが受け入れられない場合の管理策との関係

  • 管理策の優先順位と機会の関係

  • 対策実施前のリスク評価が必要な理由

  • 対策実施後に有効性を確認する理由

  • 機会の評価を実務へ落とし込む7ステップ

この記事の結論

6.1.2.3では、次の2種類の機会を評価します。

  1. 働く人の安全と健康を直接良くする労働安全衛生機会

  2. 安全衛生を管理する仕組みを良くするその他の機会

重要なのは、次の区別です。

  • リスクが受け入れられない場合
    → 必要な管理策を実施してリスクを下げる

  • リスクが受け入れられる場合
    → 現状を維持できる場合があるが、さらに良くする機会がないとは限らない

つまり、機会の評価は、リスク評価の結果が悪かったときだけ行う活動ではありません。

現在のリスクが管理されていても、設備更新、自動化、作業方法の変更、働く人の参加などによって、より安全で健康的な職場へ改善できる可能性があります。


ISO45001でいう「機会」とは何か

機会とは、現在より良い状態にできる可能性です。

ISO45001では、次の二つに分けて考えます。

種類 改善する対象 具体例
労働安全衛生機会 働く人の安全と健康 危険作業の自動化、有害性の低い物質への変更、作業姿勢の改善
その他の機会 安全衛生を管理する仕組み 購入前審査、災害情報の共有、教育方法、働く人の参加


ISO45001を担当するISO/TC 283の公式FAQでも、労働安全衛生機会は労働安全衛生パフォーマンスの改善に関係し、その他の機会は労働安全衛生マネジメントシステムの改善に関係すると説明されています。(ISO)

労働安全衛生機会の例

例えば、次のようなものです。

  • 危険な手作業を自動化する

  • 高所で行っている作業を地上から行えるようにする

  • 有害性の高い化学物質を、より有害性の低いものへ変更する

  • 重量物を人が持ち上げなくてよい設備を導入する

  • 人とフォークリフトの通路を分離する

  • 清掃や点検を安全な場所から行える設備にする

  • 単調な作業や一定速度を強制される作業を見直す

  • 作業を働く人の体格や能力に合わせる

新しい設備や工程を計画するときに危険源とリスクを考慮すること、単調な作業を軽減すること、危険性の高い活動を自動化することなどは、公式FAQでも労働安全衛生機会の例として挙げられています。(ISO)

その他の機会の例

例えば、次のようなものです。

  • 設備を購入する前に安全性を確認する仕組みを作る

  • 設備変更の計画へ働く人が参加する

  • ヒヤリハットを他部門や他事業所へ共有する

  • 災害調査の進め方を改善する

  • 教育後に理解度や実際の作業を確認する

  • 安全パトロールの指摘事項を期限まで管理する

  • 経営層が安全衛生の進捗を定期的に確認する

  • 安全について意見を言いやすい職場文化を作る

トップマネジメントの関与を見えやすくすること、安全文化や教育を改善すること、災害調査を良くすること、働く人の参加を増やすことなども、その他の機会の例として示されています。(ISO)

 


リスク評価と機会評価は目的が違う

リスク評価と機会評価は、関係しています。

しかし、目的は同じではありません。

評価 主な質問
リスク評価 現在の危険によって、どの程度のけがや健康障害が起こる可能性があるか
機会評価 現在より安全で健康的な状態へ、どのように改善できるか


例えば、機械の回転部分に安全カバーがあり、現在のリスクが組織の基準で受け入れられる状態だとします。

この場合、現在の安全カバーを維持し、点検を続けるという判断が考えられます。

しかし、次のような改善の可能性が残っているかもしれません。

  • 清掃時にもカバーを外さなくてよい設備へ変更する

  • 人が危険区域へ入らずに点検できるようにする

  • 詰まりを自動で検知する

  • 設備の状態を遠隔で確認する

現在のリスクが受け入れられるからといって、機会が存在しないとは限りません。


リスクが受け入れられる場合でも機会を評価する

リスク評価では、現在の管理策を考慮したうえで、追加の取組みが必要かを判断します。

現在のリスクが受け入れられる場合は、現在の管理策を継続できる場合があります。

ただし、次のような考え方には注意が必要です。

リスクが受け入れられる
=これ以上何も改善しなくてよい

ISO45001は、危険源とリスクを管理するだけでなく、労働安全衛生パフォーマンスを継続的に改善するための仕組みです。ISOの公式説明でも、危険源を特定し、リスクを管理し、労働安全衛生パフォーマンスを改善することがISO45001の主要な考え方として示されています。(ISO)

例えば、現在は保護具によって化学物質へのばく露を管理できているとします。

それでも、設備更新の機会に次のことを検討できます。

  • 化学物質を使用しない工程へ変更する

  • 有害性の低い物質へ変更する

  • 密閉設備へ変更する

  • 作業を自動化する

このような改善は、現在の管理策を否定するものではありません。

現在の管理を維持しながら、さらに良い状態を目指す活動です。


リスクが受け入れられない場合の対策は任意の機会ではない

リスク評価の結果、現在のリスクが受け入れられないと判断した場合は、追加の管理策が必要です。

この場合、対策を「良い機会があれば取り組むもの」として扱ってはいけません。

そのままでは安全衛生上の問題が残るため、組織は必要な対応を決めなければなりません。

例えば、機械へ巻き込まれる可能性が高く、現在の管理策では十分でない場合を考えます。

この場合に、

「自動化できれば機会として検討する」

「予算が付いたときに改善する」

だけで終わらせることは適切ではありません。

現在のリスクを下げるために、必要な管理策を検討する必要があります。

ただし、同じ改善案が、次の二つの役割を持つ場合はあります。

  • 現在の受け入れられないリスクを下げる対策

  • 将来の労働安全衛生パフォーマンスを向上させる機会

機会と考えたからといって、必要なリスク低減措置を先送りできるわけではありません。


管理策は優先順位に沿って検討する

リスクを下げるための管理策は、思い付いたものから選ぶのではありません。

ISO45001の8.1.2では、危険源の除去及び労働安全衛生リスクの低減について、管理策の優先順位を考慮します。

基本的な順番は次のとおりです。

  1. 危険源を除去する

  2. 危険性又は有害性の低いものへ変更する

  3. 工学的対策を行い、必要に応じて作業の進め方を見直す

  4. 手順、教育、表示などの管理的対策を行う

  5. 個人用保護具を使用する

1.危険源を除去する

最初に考えるのは、危険源そのものをなくせないかということです。

例えば、次のような方法です。

  • 危険な作業をなくす

  • 高所で行っていた作業を地上で行う

  • 有害な化学物質を使う工程を廃止する

  • 人が機械内部へ入る作業をなくす

2.危険性又は有害性の低いものへ変更する

危険源を完全になくせない場合は、より危険性又は有害性の低いものへ変更できないか考えます。

例えば、次のような方法です。

  • 有害性の高い洗浄剤を、より有害性の低い洗浄剤へ変更する

  • 高所で行う作業を、より低い位置で行えるようにする

  • 重い材料を、より軽い材料や小分けされた材料へ変更する

代替するときは、新しい材料や作業方法に別の危険がないか確認する必要があります。

3.工学的対策を行う

工学的対策とは、設備や構造によって、人が危険へ近づきにくくする方法です。

例えば、次のような方法です。

  • 安全カバーを設置する

  • インターロックを設置する

  • 防音囲いを設置する

  • 局所排気装置を設置する

  • 人と車両の通路を物理的に分離する

  • 遠隔操作や自動化を導入する

4.管理的対策を行う

管理的対策とは、ルールや人の行動によってリスクを管理する方法です。

例えば、次のような方法です。

  • 作業手順を作る

  • 教育を行う

  • 立入禁止区域を決める

  • 注意表示を設置する

  • 作業時間や作業人数を管理する

  • 作業許可制度を導入する

5.個人用保護具を使用する

最後に、保護具によって働く人を守ります。

例えば、次のようなものです。

  • 保護メガネ

  • 防毒マスク

  • 防音保護具

  • 安全帯又は墜落制止用器具

  • 化学防護手袋

保護具は重要な管理策です。

しかし、保護具は正しく選び、正しく装着し、継続して使用しなければ効果を発揮しません。

そのため、最初から「保護具を付ければよい」と考えるのではなく、危険源の除去や設備対策を先に検討します。


機会の評価と管理策の優先順位はどうつながるのか

6.1.2.3の機会評価と、8.1.2の管理策の優先順位は、別の要求事項です。

ただし、実務では強く関係します。

例えば、リスク評価の結果、現在の管理策では不十分だと判断したとします。

追加対策として、次の二つの案が出ました。

  • 作業手順を詳しくして教育を増やす

  • 設備を自動化して、人が危険区域へ入る作業をなくす

手順と教育は管理的対策です。

自動化によって危険作業をなくすことは、より上位の管理策になります。

さらに、自動化は労働安全衛生パフォーマンスを改善する機会にもなります。

つまり、同じ案が、

  • リスクを下げるための管理策

  • より安全な職場へ改善する機会

の両方になる場合があります。

重要なのは、「機会」という言葉を付けることではありません。

危険源の除去や、より上位の管理策を十分に検討したかどうかです。


対策を決めた後は新しい危険を確認する

良いと思われる対策でも、別の危険を生じさせることがあります。

例えば、安全柵を設置した結果、避難経路が狭くなる場合があります。

自動化設備を導入した結果、次の危険が生じる場合もあります。

  • 保全時の挟まれ

  • 予期しない起動

  • センサーの誤作動

  • 異常時の手作業

  • 操作ミス

  • 電気や圧力による危険

化学物質を代替した結果、引火性は下がっても、皮膚への有害性が高くなる場合もあります。

したがって、対策を決めたら、実行する前に次の内容を確認します。

  • 新しい危険源が生じないか

  • 既存の危険源が変化しないか

  • 新しい作業や保全作業が発生しないか

  • 他の働く人や請負者へ影響しないか

  • 緊急時の避難や救助を妨げないか

  • 法令や社内基準に適合しているか

インシデントや不適合に対する是正処置として対策を行う場合、10.2との関係で、新しく生じる危険源又は変化した危険源に関係する労働安全衛生リスクを、対策前に評価することが重要です。

一方、すべての変更を10.2だけで管理するわけではありません。

設備、材料、工程、作業方法などの計画した変更については、6.1.1や8.1.3の変更管理との関係も確認します。


対策後は本当に効果があったか確認する

対策は、設置又は実施した時点で終わりではありません。

次の内容を確認します。

  • リスクが予定した水準まで下がったか

  • 危険源を除去できたか

  • 管理策が正しく使用されているか

  • 新しい危険が生じていないか

  • 働く人の負担が増えていないか

  • 清掃や点検の作業が危険になっていないか

  • 働く人から問題が報告されていないか

6.1.4では、リスク及び機会などへの取組みを計画するとき、その取組みの有効性をどのように評価するかも計画することが重要です。

また、インシデントや不適合に対する是正処置については、10.2との関係で、実施した是正処置の有効性を確認します。

例えば、局所排気装置を設置しただけでは、効果が確認できたとはいえません。

次のような確認が考えられます。

  • 必要な吸引状態が確保されているか

  • 作業者が正しい位置で作業しているか

  • 有害物質へのばく露が改善したか

  • 日常点検が行われているか

  • 故障や能力低下が起きていないか

具体的な確認方法は、法令、設備仕様、測定結果、SDS、社内基準及び専門家の判断に基づいて決める必要があります。


6.1.2.3から対策後の確認までの全体の流れ


実務では、次のようにつながります。

1.危険源を特定する

6.1.2.1で、機械、化学物質、作業方法、作業負荷などの危険源を特定します。

2.リスクを評価する

6.1.2.2で、現在の管理策を考慮し、追加の取組みが必要かを評価します。

3.機会を評価する

6.1.2.3で、働く人の安全と健康又は管理の仕組みを、さらに良くできる可能性を評価します。

4.取組みを計画する

6.1.4で、何を、誰が、いつ、どのように行い、効果をどう確認するかを計画します。

5.管理策を選ぶ

リスクを下げる場合は、8.1.2の管理策の優先順位を考慮します。

6.実施前に新しいリスクを確認する

変更によって、新しい危険源や別のリスクが生じないか確認します。

7.対策を実施する

設備対策、作業変更、教育などを実施します。

8.有効性を確認する

リスクが下がったか、新しい危険が生じていないか、期待した改善効果が得られたかを確認します。


具体例|有機溶剤を使う洗浄作業

部品の洗浄に有機溶剤を使っている作業を例に考えます。

現在の状態

  • 作業者が容器へ顔を近づけることがある

  • 換気設備の能力が十分か確認できていない

  • 作業者は保護具を使用している

  • 容器から溶剤がこぼれることがある

リスク評価

現在の管理策では、吸入や皮膚接触のリスクが十分に管理できていないと判断しました。

この場合、必要な対策を「機会があれば行う改善」として扱うことはできません。

追加の管理策を検討します。

管理策の検討

優先順位に沿って、次の順番で考えます。

  1. 溶剤を使う洗浄工程をなくせないか

  2. より有害性の低い洗浄剤へ変更できないか

  3. 密閉設備や局所排気装置を導入できないか

  4. 作業手順、教育、立入管理を見直せないか

  5. 適切な保護具を選定できているか

機会の評価

設備更新の予定があるため、次の機会も評価します。

  • 洗浄作業を自動化する

  • 密閉式の洗浄設備へ変更する

  • 洗浄剤の購入前審査を導入する

  • 作業者が設備選定へ参加する

  • 他工程でも同じ問題がないか横展開する

自動化や密閉化は、働く人の安全と健康を直接改善する労働安全衛生機会です。

購入前審査や横展開は、安全衛生を管理する仕組みを改善するその他の機会です。

実施前の確認

密閉式設備を導入する前に、次の危険を確認します。

  • 内部清掃時のばく露

  • 保全時の予期しない起動

  • 蒸気や圧力

  • 漏えい

  • 火災や爆発

  • 廃液処理

  • 緊急停止の方法

実施後の確認

設備導入後は、次の内容を確認します。

  • 作業者のばく露が改善したか

  • 容器からのこぼれがなくなったか

  • 清掃や保全を安全に行えるか

  • 新しい異常やヒヤリハットが発生していないか

  • 作業者から使いにくさが報告されていないか

このように、リスク評価、機会評価、管理策の選択、実施前の確認、実施後の有効性評価を一つの流れとして管理します。


機会を評価する実務7ステップ


ステップ1 機会を探す場面を決める

次の場面を、機会を確認するきっかけにします。

  • リスクアセスメント

  • 設備や工程の変更

  • 新しい設備の購入

  • 災害やヒヤリハットの調査

  • 安全パトロール

  • 内部監査

  • マネジメントレビュー

  • 働く人からの改善提案

  • 新しい技術や安全情報の入手

ステップ2 機会の候補を集める

安全衛生担当者だけで考えず、作業者、管理監督者、保全担当者、購入担当者などから意見を集めます。

ステップ3 必要な対策と機会を区別する

次の二つを区別します。

  • 現在の受け入れられないリスクを下げるために必要な対策

  • 現在より良い状態を目指す機会

同じ案が両方に関係する場合は、そのことを記録します。

ステップ4 機会の種類を整理する

次のどちらに該当するか整理します。

  • 労働安全衛生機会

  • その他の機会

両方に該当する場合もあります。

ステップ5 安全衛生上の効果を評価する

次の内容を確認します。

  • 危険源を除去できるか

  • リスクを下げられるか

  • 作業負担を減らせるか

  • 働く人に作業を合わせられるか

  • 管理の仕組みを改善できるか

ステップ6 新しいリスクと実行条件を確認する

次の内容を確認します。

  • 新しい危険源

  • 法令及び社内ルール

  • 必要な費用

  • 必要な人員

  • 必要な技術

  • 実施期間

  • 教育

  • 保守や点検

  • 働く人の意見

ステップ7 取組計画と有効性評価へつなげる

評価結果を6.1.4の取組計画へつなげます。

計画には、次の内容を含めます。

  • 実施内容

  • 責任者

  • 実施期限

  • 必要な資源

  • 実施前の確認

  • 実施後の効果確認

  • 見直し時期


よくある誤解

誤解1 リスクが受け入れられれば何もしなくてよい

現在の管理策を維持できる場合はあります。

しかし、設備更新や新しい技術によって、さらに安全な状態へ改善できる機会が残っている場合があります。

誤解2 リスクが受け入れられない場合の対策も機会である

必要なリスク低減措置を、任意の改善として先送りしてはいけません。

同じ対策が機会の性質を持つことはありますが、必要な対応であることは変わりません。

誤解3 手順と教育を追加すればよい

最初から管理的対策だけを選ぶのではなく、危険源の除去、代替、工学的対策の順に検討します。

誤解4 対策を決めたらすぐに実施すればよい

対策によって新しい危険源や別のリスクが生じることがあります。

実施前に、変更後の作業、保全、異常時、緊急時まで確認します。

誤解5 設備を設置したら改善は完了する

設置しただけでは、効果があったか分かりません。

対策後にリスクが下がったか、新しい危険が生じていないかを確認します。

誤解6 機会はすべて実施しなければならない

すべてを同時に実施する必要があるとは限りません。

安全衛生上の効果、法令、必要な資源、新しいリスクなどを評価して優先順位を決めます。

ただし、法令上必要な措置や、受け入れられないリスクへの対策を任意の機会として先送りしてはいけません。


実務確認チェックリスト

リスク評価との区別

  • 現在の管理策を考慮してリスクを評価している

  • 追加の対策が必要か判断している

  • 必要な対策と任意の改善機会を区別している

  • リスクが受け入れられる場合にも機会を確認している

機会の評価

  • 労働安全衛生機会を確認している

  • その他の機会を確認している

  • 危険源の除去につながる案を確認している

  • 作業を働く人に合わせられないか確認している

  • 働く人の意見を反映している

  • 設備や工程の変更時に機会を確認している

管理策の選択

  • 危険源の除去を最初に検討している

  • 危険性又は有害性の低いものへの変更を検討している

  • 工学的対策を検討している

  • 管理的対策だけで終わっていない

  • 保護具だけに依存していない

実施前後の確認

  • 対策によって新しい危険が生じないか確認している

  • 保全、清掃、異常時及び緊急時を確認している

  • 実施後の効果確認方法を決めている

  • リスクが実際に下がったか確認している

  • 別のリスクが生じていないか確認している

  • 働く人から意見を聞いている


FAQ

Q1.リスクが受け入れられる場合、機会評価は不要ですか

不要とは限りません。

現在の管理策を継続できる場合でも、危険源の除去、自動化、作業負担の軽減など、さらに良くする可能性を評価します。

Q2.リスク低減策と労働安全衛生機会は同じですか

同じとは限りません。

リスク低減策は、現在のリスクを管理するための対策です。

労働安全衛生機会は、現在より安全で健康的な状態へ改善できる可能性です。

同じ案が両方に該当する場合もあります。

Q3.管理策は手順や教育から考えてもよいですか

最初から手順や教育だけに限定するのは適切ではありません。

危険源の除去、代替、工学的対策を先に検討し、その後に管理的対策や保護具を考えます。

Q4.対策実施前にもう一度リスク評価が必要ですか

対策によって危険源が新しく生じる場合や、危険源の状態が変化する場合は、変更後のリスクを事前に確認する必要があります。

適用する条項は、変更の理由や種類によって6.1.1、8.1.3、10.2などが関係します。

Q5.対策後は何を確認すればよいですか

リスクが下がったか、管理策が機能しているか、新しい危険が生じていないか、働く人の負担が増えていないかを確認します。

Q6.保護具を使用してリスクが下がれば十分ですか

保護具は重要ですが、最後に検討する管理策です。

危険源の除去、代替、設備対策ができないかを先に確認します。

Q7.機会は点数化する必要がありますか

すべての組織に共通する点数方式はありません。

高・中・低、優先度区分、文章による評価など、判断理由を説明できる方法を決めます。

Q8.機会を見送る場合も記録した方がよいですか

判断理由、再確認する時期、設備更新時に再検討する条件などを残すことが望まれます。


まとめ

ISO45001の6.1.2.3では、次の二つの機会を評価します。

  1. 働く人の安全と健康を直接改善する労働安全衛生機会

  2. 安全衛生を管理する仕組みを改善するその他の機会

今回、特に重要なのは次の点です。

  • リスク評価と機会評価は目的が異なる

  • リスクが受け入れられる場合でも機会は存在する

  • リスクが受け入れられない場合の対策は任意ではない

  • 管理策は危険源の除去から順番に検討する

  • 手順、教育、保護具だけで短絡的に終わらせない

  • 対策前に新しい危険や変化した危険を確認する

  • 対策後にリスクが下がったか、有効性を確認する

  • 別のリスクが生じていないか確認する

6.1.2.3は、改善案を並べるための要求事項ではありません。

現在のリスクを管理するだけで終わらず、働く人の安全と健康、そして安全衛生を管理する仕組みを、さらに良くする可能性を評価するための要求事項です。

評価した機会は、6.1.4で具体的な取組計画へつなげます。

次回は、組織が守る必要がある法令や、組織が受け入れたその他の要求事項をどのように決定するのか、6.1.3について説明します。


注意書き

この記事は、ISO45001及び労働安全衛生に関する一般的な情報を提供するものです。

個別の現場におけるリスクの受入れ可否、管理策の選定、設備仕様、化学物質の代替、保護具の選定、法令の適用及び健康影響について、最終判断を代替するものではありません。

実際の対応では、正規に入手したISO45001又はJIS Q 45001、最新の法令、行政情報、社内ルール、設備の取扱説明書、SDS及び現場状況を確認してください。

必要に応じて、管理者、安全衛生担当者、設備メーカー、産業保健スタッフ又は安全衛生の専門家へ確認してください。


要約

ISO45001の6.1.2.3は、労働安全衛生機会及び労働安全衛生マネジメントシステムに関するその他の機会を評価するための要求事項である。

労働安全衛生機会とは、危険源の除去、自動化、有害性の低い物質への変更、作業負担の軽減など、働く人の安全と健康を直接改善できる可能性をいう。

その他の機会とは、設備の購入前審査、災害情報の共有、教育、働く人の参加など、安全衛生を管理する仕組みを改善できる可能性をいう。

リスクが組織の基準で受け入れられる場合でも、さらに改善できる機会がないとは限らない。一方、リスクが受け入れられない場合に必要となる対策は、任意の機会として先送りしてはならない。

リスクを低減する管理策は、危険源の除去、代替、工学的対策、管理的対策、個人用保護具の順に検討する。対策を実施する前には、新しく生じる危険源や変化するリスクを確認し、実施後には対策の有効性と新しいリスクの有無を確認する。

個別の設備対策、法令適用、化学物質の代替、保護具及び健康影響については、最新の規格、法令、行政情報、SDS、社内ルール及び現場状況に基づき、人間が最終判断する必要がある。